俺の夏休み

文字数 3,531文字


 舞佳が体調を崩した次の日、俺は会社へ連絡をして、今日から夏休みを取ることにした。少し前倒しになるが、あらかじめ夏休みに入れる状態にはしていたため、他の社員には迷惑かからないようになっている。俺は、昨日滞っていた部屋の掃除や洗濯等をしていると、舞佳が起きてきて、リビングへ来た。俺を見た舞佳は、驚いた顔をしていた。
「健さん、今日は出勤じゃなかったでしたっけ?」
「あぁ。前倒しして今日から夏休み取ることにしたんだ。だから今週はお休みだよ」
 俺は家事をしながらそう答えた。
「私なら大丈夫ですよ。薬もらったし、家事くらいならできますので」
 舞佳はそう言って家事をやろうとする。俺はそれを止めてから言う。
「体調悪い時くらい素直に休んでて大丈夫だから。ちゃんと休んで早く治してくれた方が俺も気持ちが楽だ」
「……わかりました。ですが、何もしてないでじっとしているのも落ち着かないです。何か少しでも手伝えることがあったら言ってください」
 舞佳は落ち着かない感じでそう言った。俺は少し考えてから答える。
「手伝うとはちょっと違うけど、少し一緒にやってもらいたいことがあるんだ。それでもいいか?」
「いいですよ!何をすればいいですか?」
 舞佳は少し嬉しそうにそう言った。
「そしたら午後からやろうか。とりあえず午前中は休んでてくれ。あと、朝食は昨日と同じ卵がゆでいいか?」
「はい!いただきます!」
 舞佳はさらに嬉しそうにそう答えた。俺はキッチンへ向かい、昨日と同じ要領で卵がゆを作り始めた。
 その後、舞佳は卵がゆを食べてから薬を飲んで、自分の部屋で眠りについた。俺は先ほど舞佳に言った、一緒にやってもらいたいことの準備をしていた。それは、鑑賞会をすることだ。リビングのテレビと自分のスマホをリンクさせて、気になっていた映画やドラマ、アニメをピックアップする。夏休みに家でやることといえば、映像作品にどっぷり浸かること。俺は今年の夏休み、あらゆる作品を見まくることにした。そして、舞佳にもその鑑賞会に付き合ってもらおうと考えた。体調不良でもテレビを見ることはできるからな。俺は鑑賞会に向けて、着々と準備を進めた。

 *

 お昼過ぎになり、舞佳はひと眠りして起きてきたようだ。薬が効いてきたようで、顔色がだいぶよくなったように見える。熱を測ると、微熱くらいになっていた。
「だいぶ体調よくなったみたいだな」
「はい!おかげ様でだいぶよくなりました!卵がゆのおかげです!」
「そりゃなによりだ。だが、無理は禁物だぞ」
 俺は念を押してそう言った。舞佳はうなずいてから
「そういえば、一緒にやってもらいたいことって結局なんでしょうか?」
 そう聞いてきたので、俺は説明し始めた。
「これから俺が気になっている映画を見るから一緒に見てほしい。いくつか候補があるんだが、舞佳は作品の好みとかあるか?」
 舞佳は予想もしてなかったといった感じで困惑した表情になる。
「私、そんな映画とか見たことないのでなんとも言えないですね……ですが、小学生の時は金曜ロードショーとかで少し見た覚えがあります。その時見ていたのは、アニメ映画で世間でも人気だった作品だったと思いますが……作品名は忘れてしまいました。他の作品もいくつか見ていましたが、どれも面白かった印象がありますので、特にこだわりはないですね」
 舞佳は色々思い出しながら答えてくれた。それを聞いた俺は、
「だったら、まずアニメ映画を見てみるか。最近のアニメ映画は結構レベルが高くて楽しめると思うぞ。早速俺が気になっている作品から見てみよっか」
 俺はテレビを操作をしながらそう言った。
(とりあえず、この作品から見てみるか。世間でもかなり人気あったやつだし、面白くないことは無いだろう)
 俺は舞佳と一緒にソファに座り、アニメ映画の作品を再生して、鑑賞会を始めた。

 *

 今回見ている作品は、タイムリープしながら男女の恋愛模様を描いた作品だ。序盤は明るい話から始まるが、途中からシリアスな場面が続き、最後は切ない感じで終わる。メリハリがあってとてもいい作品だと思った。
 映画を見終わり、舞佳の反応を見てみると、結構な勢いで涙を流していた。どうやらすごく感動したようだ。
「この作品面白かったな。最後のシーンとか切なすぎるよな」
 俺がそう言うと、舞佳は何度もうなずきながら、感想を語り始めた。
「本当によかったです。最後のシーン、切なすぎて涙が止まらないです。最高です。今の映画ってこんなに面白いんですね」
 舞佳は感動を言葉で頑張って伝えようとするが、それ以上に表情が面白い作品だったことを物語っていた。
(正直どんな反応になるか分からなかったけど、ここまで好反応だとはな。……鑑賞会大成功だな)
 俺は舞佳の反応を見て素直に喜びつつ、次の提案をした。
「この作品の続きってわけじゃないんだが、同じ監督が作っている作品があるんだが見てみるか?俺も気になっているから、この機会に見てみたいんだが」
「見ます!見たいです!すごい!楽しみです!」
 風邪をひいていることを忘れたかのようなリアクションで舞佳はそう答えた。
 そうして俺らは鑑賞会を再開した。

 *

 鑑賞会はそのまま続いていき、一度休憩がてら夕食を食べた。夕食を食べ終えたところで、舞佳が「まだ見たりないです!」ということだったので、他の作品も一緒に見ることになった。俺も暇な日は、平気で10時間くらいぶっ通しで見続けることがある。舞佳も同じ素質があるようだったので、同じ仲間ができて嬉しい気持ちになる。そして、夕食後も鑑賞会を続けていると、途中で舞佳は俺の肩に寄りかかってきた。寝てしまったようでぐっすり寝ている。
(うお、びっくりした。……てか、寝顔めっちゃ可愛いな。……いかんいかん!つい見とれてしまった。とりあえず寝かしたままにしておこう)
 俺は舞佳をソファにゆっくり横たわらせてから、ソファを抜け出す。風邪が悪化しないように、舞佳の部屋から枕と掛け布団をもってきた。そして、枕を首の下に入れようとしたところで、舞佳が俺の腕を掴み始めた。
(なんだ……起きたのか?)
 舞佳の顔に目を向けると、まだ眠っているようだった。寝ぼけてたまたま掴んでしまったようだ。ゆっくり外そうとしたが、しっかり掴まれていたので剝がせなかった。無理やり剥がして起こすのも悪いと思ったので、腕を掴まれたまま俺はどうするか考えた。とりあえず、このままの体勢だと疲れるので、腕を掴ませたまま、ソファの端っこに座ることにした。映画の再生を止めて、舞佳のことを見守っていると、なんか様子に変化があった。顔が少し赤くなり、少し苦しそうな表情をしている。体調に変化があったのかもしれないと思い、注意深く観察していると、苦しそうにしているよりは、喘いでいる感じだった。その姿は、とても官能的だった。
(……なんかいけないものを見ている感じでやばいな。腕を掴む手の力が気持ち強くなっている気がするし、離れられないのが悩ましいな)
 俺は舞佳のそんな姿に、少し欲情しそうになるが、気をそらすため映画を再生し始めた。だが、時折聞こえる喘ぎ声に気をとられ、映画に集中できない。それからしばらくすると、舞佳がびくっと動いたのでそちらを見てみると、目を覚ましたようだ。目をぱっちり覚ました舞佳と目が合うと、舞佳はびっくりした様子で俺から目をそらした。そして、舞佳は上体を起こして、俺から少し距離をとった。その時に、腕を掴んでいたことに気づいたようで、舞佳はまた驚いた表情になった。そんな様子を見た俺は、状況を説明することにした。
「大丈夫?なんか苦しそうにしていたから、布団をかけたんだけど、その時に俺の腕を掴んで離さなかったんだよね。無理やり剥がす訳にもいかなかったから、そのまま俺もソファに座っていたんだ」
 俺はそう説明したが、舞佳はまだ状況を把握しきれていないようで、混乱したままだった。
「あの……わ、私、変なこと言ってたりしなかったですか?」
 舞佳は恥ずかしそうにそう聞いてきたので
「いや、苦しそうにしていただけで、変なことは言っていなかったな」
 俺はそう答えた。変なことは言っていない。変な声は出ていたが
「そうですか……すいません、途中で寝ちゃって。食後で眠気が来たみたいで……」
「そもそも体調不良なんだから、あんま無理しないで今日は早く寝よっか。明日もまた鑑賞会やろうな」
「……そうします。ありがとうございました」
 舞佳はそう言うと、自分の部屋へと帰っていった。
(なんかずっと目が合わなかったな……)
 もしかして、何か疑われているのかなと思いつつ、俺も明日に向けて早く寝ることにした。
 
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