葛藤

文字数 1,149文字

俺は松本と別れてから、安西に会った時具体的に何を話すか考えながら家に帰っていた。
(どこから話そうかな……まずは未成年後見人の制度について話して……その後は俺と一緒に暮らそうって感じか……いや、これよく考えると告白より恥ずかしいことじゃね?)
 俺は考えているうちに大きな問題点に気づいた。保護する=同居するという点だ。好きだから付き合おうって言う方がましに思える。
(いや、高校生と付き合うって方が問題あるか……って話がずれてきてるぞ俺!……「保護したいから一旦俺の家に避難しないか」……よし、これが無難そうだな)
 安西と会った時に話す内容を考えていたら家に着いた。時刻は7時30分。松本との作戦会議は長かったように感じたが、集合した時間が早いのもあって、まだそこまで時間は経過していなかった。
(次安西と会うのはいつ頃になるかな……大体期末試験の日程って7月頭くらいからだろ。そうするとあと1週間後くらいか……思ったより先だな……)
 会うタイミングが結構先のことに俺は気づいた。会うまでに時間があるので、今度は何か必要な準備があるかを考え始めた。
(仮に安西が俺の提案に乗ったとしたら、次は安西の両親にそのことを話す必要があるな。あとは裁判所での手続きとかもあるか……どういう手続きが必要なんだろ)
 俺はスマホで手続きのことを調べ始めた時だった。
「ドン」と隣から物音が響く。夜8時――いつも通り虐待が始まったようだ。
(もう結構虐待続いてるよな……しかも物音が以前より大きくなっている気がするんだよなぁ)
 安西は、機嫌の良し悪しで母親から暴力を受けていると言っていた。それが本当ならば、物音がしない日もあるはずだ。しかし、初めて安西と会った日から物音はずっと続いている。
(……ここ1週間続いているのは異常事態なのでは)
 俺の中で心配が膨らむ。物音はそうしている中でも続いている。
(もし、今までにないほど虐待がエスカレートしているのならば、安西は無事で生きていけるのか?次に会える日は来るのか?時は一刻を争う状況なのではないのか?)
 俺の中で更に心配は広がっていく。そんなことを考えている最中、先ほどの松本の言葉がリフレインする。
『せいぜい後悔しないように頑張れよ』
(もし俺がここで何もしないで安西と二度と会えないようなことがあったら、間違いなく後悔するよな……松本と考えた作戦が台無しになるかもしれないがちょっとやってみるか)
 俺はさっき松本と考えていた作戦とは別の作戦を考えていた。松本と別れた後思いついたばかりの作戦だったので、まだ具体的には何も決まっていない。しかも、この作戦が失敗すると松本との作戦も行えなくなる可能性が高い。
(出たところ勝負だがやってみるか)
 俺はスマホを片手に隣の家に向かった。
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