わたしの一日の終わり

文字数 2,495文字

 公園をあとにした私は、寄り道することなく家に帰った。家に帰ってからは、洗濯物をベランダから取り込んだり、部屋の掃除をしたりなどの家事をこなし、残った時間は勉強に充てる。
(今日は30分くらい勉強できそう……明日からは、もっと早く帰って勉強の時間を作らなくちゃ……)
 私の自由な時間はこの時間と22時以降の時間だ。大体24時には寝るので、この数時間だけが私の自由な時間となる。

 *

 妹を迎えに行く時間となり、学習塾で妹を引き取るとそのまま家へと一緒に帰る。
「おい、今日の夕飯なに?」
「今日は肉じゃがとアジの開きですね」
「……はぁ、私の分に人参入れるなよ。入ってたら殺すから」
「……わかりました」
 妹はこの通り私のことを完全に下に見ている。母親の私への態度を見て、私のことは【何を言ってもいいやつ】という認識になっているようだ。妹は私に対して、母親が暴言をはいている時と同じ口調で話すことが多い。
「あ~勉強だりぃな~勉強しなくても生きていけるのになんでやらなきゃいけねぇんだよ」
「……」
「もっと友達と遊ぶ時間ほしいな~パパに言って習い事減らしてもらおっと。ママはどうせ反対するだろうし」
 この妹は口が悪いが小学生の割に頭の回転は速い。学校では友達とうまくやっているみたいで、そういうところは両親に似ていると感じる。妹はほかにも様々な愚痴をこぼしていたが、私は適当に相槌を打ちながら家へと帰った。
 家に帰ってからは夕食の支度をする。いつも7時50分頃に母親が帰ってくるので、それまでには夕食が出来上がるよう急いで準備する。対して父親は基本的に帰りが遅い。会社の接待とかで外で食べることが多いので、夕食は用意しない。私の分は、別で作って食べるが、使える食材が母親によって制限されている。その食材は母親が買ってきて冷蔵庫の中で仕分けされている。ほとんど最低限のものしか私の分はなく、肉や魚が入ってることなんで無かった。なので、私の料理は基本的に野菜炒めになりがちだ。味付けをうまく変えて飽きないように工夫して食べている。
 夕食を作り終えて、いつでも配膳できるように準備していると、母親が家に帰ってきた、リビングのドアが雑に開けられて母親が入ってくる。
(うわぁ……今日も機嫌悪いなぁ……)
 母親と目が合うと、こちらへ近づいてきて首根っこを掴まれる。この前壁にぶつけられた時にできた青あざが痛む。
(いたたたた……連日続くとこれがきついのよね……)
 そのまま壁側に放り投げられる私は、何もかを諦めて何も考えないようにする。
 母親は相変わらず険しい表情で
 「あのくそばばぁ、仕事もロクにしねぇくせに偉ぶりやがって……まじうぜぇ」
 今日も職場の上司の文句を言いながら私にあたってくる。髪の毛を掴んだり、体にケリをいれてきたりしてストレスをぶつけてくる。最初は軽くだが、どんどんエスカレートして口調も荒くなる。
(ここ最近容赦なくなってきているのよね……これ以上エスカレートするとちょっときついなぁ……)
 10分くらいそんな時間が続いて、母親の機嫌が落ち着いてきた。母親は、自分の着替えをもって風呂場へ向かう。私は打ちのめされたまま壁に寄りかかっていると、妹が自分の部屋から出てきて、私の様子をニヤニヤと見ている。
 母親が暴力を振るっているときは自分の部屋から出てこないが、終わるのを察するとこうやって私のことをみてくる。私のこの姿を見て優越感に浸っているようだ。
(ホントにいい性格しているんだから……)
 私は、笑みを浮かべている妹と目を合わせないように立ち上がり、食卓に料理を配膳していく。その姿を見た妹は「ちっ、つまんねぇな」と小声でこぼし、自分の部屋へ戻っていく。
(もっと私が苦しんだり、泣いたりしている姿を見たいんだろうな……最初の時みたいに)
 私が母親から暴力を受け始めたころは、痛みと悲しみで涙をこぼしていた。そんな生活が1年経った頃くらいから、もうどうしようもないことを受け入れて泣かなくなった。
 母親が風呂から出てくると、改めて妹が部屋から出てくる。母親と妹は一緒に食卓に並んだ夕食を食べ始める。妹は、今日あったことや上手くいったことなどを話して母親に褒めてもらっている。妹は母親にいい子アピールをしていることが多い。
 2人で和気あいあいと話しながら夕食を食べ終わると、今度は妹が風呂に入る。妹が風呂に入っている間に夕食で使った食器を回収しておく。それから私は自分の夕食を作り、そのままキッチンで食べる。食べ終わったらさっき回収した食器と一緒に洗う。
 妹が風呂から出たら、私も風呂へ入る。風呂は数少ない私のリラックスできる時間の一つだ。体を洗っているとあざが痛むが、丁寧にシャワーを当てていると、少しずつ痛みが引いていく。体を洗い終わって風呂につかると、今日一日の疲れが癒されていくのを感じる。
 ゆったりと時間を過ごし風呂を出ると、リビングは私一人になる。母親と妹は一緒の部屋で、それぞれの時間を過ごしているようだ。私の部屋は無く、このリビングで生活している。リビングで勉強してリビングで寝る。父親は大体私が勉強している時間に帰ってくるが、特に言葉を交わすことはない。私に無関心なのだ。父親は風呂を素早く済ませて、自分の部屋へ入っていく。
 私は引き続き勉強を続ける。今日殴られたところがじんじん痛むが勉強に集中していくとあんまり気にならなくなる。勉強に集中している時間は、他のことを考えずに済むし、勉強の成果が出ると達成感があるので、私は勉強が好きだ。勉強がひと段落つくと、私は寝る準備をする。朝の6時に目覚ましをセットして目を閉じる。
(はぁ……ここんとこ暴力が続いているのしんどいなぁ……大体2~3日続くといったん止まるのだけど、ここんとこは4日連続だしなぁ……エスカレートしていってるし……)
 私は目を閉じている間は、嫌でも色々思い出してしまう。気を紛らわしていた痛みも感じるようになり、なかなか寝付けない。明日も朝早いので、なんとか眠ろうとするが、なかなか眠れないまま時間だけが過ぎていった。
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