これからのこと

文字数 2,016文字

 無言の時が流れ、安西は涙が止まり少し落ち着いた様子だ。安西は掠れた声で話し始めた。
「藤村さん、本当にありがとうございました。改めて私を保護してもらってもいいですか?」
「もちろんだ。話は戻るけどこれから君はどうしたい?」
 俺は先ほどの2つの提案の話に戻す
「正直私は藤村さんが保護してくれるのであればどちらの方法でも構わないです」
「……そっか。そしたら明日の話し合いの流れ次第だね。なるべく揉めないように話をつけたいと思う。変な恨みとか買いたくないからね。だから今の段階ではどっちの手段を使うとか決めずに行こうと思う」
「分かりました」
「もう一つ確認だが、明日の話し合いの時にあの両親の元から離れたいって証言してもらってもいい?未成年後見人制度において、そこが重要な要件になっているみたいだから」
「喜んでそうします」
 安西は嬉しそうにそう答えた。
 (ずっと課題だったことがようやくクリアできたな……これで有利に話を進められそうだ!)
「よし!じゃああとは明日の夜までどう過ごすかを話してから今日は寝よう!」
 続けて俺は話す
「明日くらい学校休むのはどうだ?ゆっくり過ごして夜に備えるのも良いと思う。俺も会社休んでもいいし」
 俺はそう提案する。安西は少し考えてから答える
「明日も学校に行こうと思います。今は試験前で大事な時期なのであまり休みたくないです」
「そうか……それならいつも通り過ごそう。……あとは、学校終わった後はどうする?家にそのまま帰ってくるなら予備の鍵を渡しておくが」
「そうですね。もしそうしてもらえるならばありがたいです」
「りょーかい。家に帰ったら好きに過ごしてくれ。俺が会社から帰ってきたら夕飯でも食べに行くか。またファミレスでも行くか?」
「……いや外食なんてお金かかるし悪いですよ。なんか食材を買ってきていただければ私が作りますよ。あの家で料理を作っていたのは私なので、それなりに腕には自信あります」
「お、手料理かぁ。ちょっと興味あるし、頼んでもいいか?なんか得意料理とかあるのか?」
「そうですね……野菜炒めとかかなり作っていたのでそこそこ自信あります」
「いいね〜じゃあ明日俺が会社の帰りがけに食材買ってくるから料理は任せた!」
「分かりました。がんばります!」
「よーし、だいたい明日のことは決まったし今日はもう寝るか!普段使ってない部屋があるからそこを使ってくれ!物置として使っているから色々物が置いてあると思うが、寝るには十分なスペースがあると思う。客用の布団も置いてあるから好きに使ってくれ」
 俺はそう言って安西を部屋まで案内した。
「わざわざありがとうございます。……あの、1つお願いがあるんですがいいですか?」
「おっどうした?言ってみてよ」
「……お風呂がまだなのでお借りしたいです。あと、タオルとかも……」
「あ……ごめんね!気がつかなくって!全然大丈夫だよ!風呂沸かすからちょっと待っててね」
 俺は慌てて風呂場に行って沸かす準備をする。基本シャワーしか使ってないから風呂を取り急ぎ掃除して沸かす準備をする。
 (女性用のシャンプーとかないなぁ……まぁこれは仕方ない俺のを使ってもらおう。タオルとかは客用のあるから大丈夫だとして他は……あ〜こう言う時に今まで彼女がいなかったことが仇になってるなぁ……泣けてきたぜ)
 俺は自分の恋愛経験の無さを後悔しながら風呂場の準備をした。

 *

「お風呂ありがとうございました」
 安西が風呂を出て俺にお礼をした。俺の部屋着を着た風呂上がりの安西を見る。濡れたつややかな髪と凜とした目元にどこか幼さが残っている顔立ち。普段制服姿のため見慣れないラフな格好に俺はつい見入ってしまう
 (……風呂上がりの女の子ってこんなにも色気があるんだな……やばいやばい、今まで学生の子ってイメージが強かったからつい1人の女の子として見るとドキドキしてしまうな……普通に可愛いし……ダメダメ、俺は1人の大人としてこの子を保護しなきゃならないのだからそういう目で見ないようにしなきゃ)
 俺は目を逸らす。
「いやいや、準備に時間かかってごめんね〜よーし、俺も風呂に入るか〜」
 安西を直視しないよう俺はそう言っていそいそと風呂の準備をし始めた。
「じゃあ私は明日の準備をしてから寝ます。おやすみなさい」
「おっけーおやすみ〜また明日」
 お辞儀をする安西を見送り俺は風呂場へ向かった。
 風呂に入るとシャンプーの残り香がして、いつもとは違った香りがする。
 (同じシャンプー使ってるはずなのに、どこか違う香りがする気がする。なんでだろうな)
 いつもと同じ風呂のはずなのに、どこか違う様子に俺は少しドキドキする。
 (……このドキドキはなんだろうな。いつもと違う状況にドキドキしているのか……それとも……いかんな相手はまだ高校生なのに。俺のこの惚れやすい性格なんとかしてくれ……)
 俺はもやもやした気持ちのままシャワーを浴びた。
 

 
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