2度目の外食

文字数 2,113文字

 レストランエリアにたどり着いた俺らは、この階にある飲食店のフロアマップを見ていた。
「おー、いろんな店があるなぁ。何か食べたいものとかある?」
「……」
「安西さん?」
 安西はフロアマップに目が釘付けになっている。すごい集中力だったので声をかけられなかった。その様子を見守ってしばらくすると
「全部見ましたが、どこも魅力的すぎて選ぶことができません」
 安西は困り果てたといった感じの表情で俺の方を見てくる。俺はそんな表情をする安西が新鮮で少し笑いつつ、思いついた提案をしてみる。
「そっか。じゃあ俺が選ぼうかな。逆に苦手なものとかあったりする?」
「そうですね……辛い物は苦手ですのでそれ以外であれば」
 俺は安西の意見を参考にフロアマップを改めて見てみる。
「……このオムライス専門店はどうだろう?以前一度行ったことがあるんだが、結構おいしかったぞ」
「オムライス!外で食べるのは初めてです!」
 安西は目を輝かせて答える。
(外食でのはしゃぎ方がまるで小学生だなこりゃ)
 俺は普段のしっかりした安西とのギャップを感じ、つい笑ってしまう。
「こっちにあるみたいです。いきましょう!」
 俺のことなど見向きもせず、まっすぐ店に向かっていく安西。俺は置いてかれないよう付いて行った。
 店に入り席に座ると、俺たちはまずメニュー表に目を通す。メニューについて話し合った結果、同じスタンダードのオムライスを頼むことにした。
 店員が持ってきた水を飲んで一息つく。俺は色々気になることがあったのを思い出し、安西に話しかけることにした。
「そういえば学校のテストっていつ頃なの?」
「明後日ですね。最後の追い込みをしないとです!」
「あっ、そうだったんだ。ごめんね。こんなところ連れまわしている場合じゃなかったよね」
 俺は少し考えれば分かったことを見落としていたに気づき、安西に謝罪する。
「いえいえ、気にしないでください。気分転換にもなりますのでこの後の勉強は、はかどりそうです。前の家のままでしたら集中できなかったと思いますので」
「そっか……でもごめんな。昨日聞いておくべきだったよ」
「大丈夫です!今の私なら全然上位狙えると思います。それに買い物だってしておく必要があったと思いますから」
 安西は自信ありげな表情でそう答えた。
「そう言ってくれるとありがたいな。あ、話変わっちゃうんだけど、安西さんさえよければ引っ越さない?あの家族が近くにいる状態が嫌なんだよね」
 俺は昨日あたりから考えていたことを口にする。安西は少し考えた後、俺の提案に答えた。
「いいと思います!私もその方が安心です」
「よし、じゃあ決まりだな。夏休み入ってからとも考えていたが、テスト後に引っ越し感じでもいいよね。一刻も早く離れたいし」
「賛成です!荷物もそんな無いですし、すぐ準備できると思います」
「じゃあ後は俺次第だな。新しい家は俺の方でいくつか調べてみるね」
「ありがとうございます。お願いします」
 安西は嬉しそうにそう答えた。俺は続けて先ほど洋服を選んでいる時に気になっていた連絡手段の件について聞いてみた。
「あと今後安西さんと連絡とれる状態にしておきたいから、この後スマホを買いに行かない?持っていると便利だし、俺も安心だからさ」
「えっ!いいんですか!私気になっていたんです。カメラとか通話機能とか使ってみたかったので!」
 安西はワクワクした表情でそう答えた。
(こんなに素直に喜べる子だったんだな。以前のファミレスの時とは別人みたいだ)
 俺はしみじみ助けてよかったと振り返り、喜びをかみしめた。
「オムライス2つお待たせいたしました~」
 店員がオムライスを2つ慣れた手つきで置いてからお辞儀をして去っていった。
「ここはあの猫型ロボットはいないんですね」
 安西は少し寂しそうにそう言った。
「あれはファミレスに最近導入されたものだからな。こういったレストランにはあまり導入されてない印象だ」
「そうなんですね。また会いたいです」
「引っ越し終わったらまた行こうか」
「はい、行きたいです!」
 満点の笑顔でそう答える安西。そんな様子を見つつ俺はオムライスを口に運ぶ。
「やっぱうまいな~ここのオムライス」
 俺は久しぶりの味に感動を覚えていると、それを見た安西がオムライスを一口食べる。
「おいしい!なんでこんな卵がふわふわしているんだろう。あと、このデミグラスソースもコクがすごくてオムライスにすごい合う。こんなおいしいオムライス初めて」
 未知のおいしさに驚きを隠せないといった様子で次から次へとオムライスを食べる安西。
 あまりにもおいしそうに食べるので俺もつられて食べ始めた。
 それから10分もしないうちに完食した俺らは食後の余韻に浸っていた。
「おいしかったです~」
 安西は満足しきった表情でぼーっとしている。
 このまましばらく食休みしているのもよかったが、テスト勉強のこともあるので俺は安西に話しかける。
「あと5分くらいしたら出よっか。この後も買い物あるし」
「わかりました~」
 いつもの安西を見る影もなく完全にリラックスモードに入っていた。
 そのまま特にしゃべることはせず、一休みしてから俺らは店を後にした。
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