作戦開始

文字数 2,073文字


「ピンポーン」
 俺は隣の家のインターホンを鳴らして扉の前で待つ。
(最初どう切り出そうかな)
 思いついたばかりの作戦なので、細かいところをどうするか全く思いついていない。
 俺は頭の中でこれから言うことを整理していると
 『どちら様ですか』
 インターホンから声がする。おそらく母親の声だろう。
「隣の家の藤村と申しますが、ちょっと連日の物音が響いていることについて聞きたいです。警察に相談しようと考えておりまして……でも、何かご事情があって物音がしているのであれば、いきなり警察に通報するのもどうかなって思いましてこうして伺うことにしました。ちょっとお話できませんか?」
 俺は緊張したが、なんとか頭の中で考えていたことを言葉にすることが出来た。
『ちょっとお待ちいただけますか!』
 母親がそう言うと、インターホンが切れた。
(よし、とりあえず直接話ができそうだ。ここから俺の考えていた展開に持っていけるといいが……)
 俺は今後の展開について作戦を練っていると、家の扉が開いた。
「お待たせしました。ごめんなさいね~お騒がせしちゃって……うちの子供が少々問題があって暴れちゃうのよ。さっきの物音は暴れているのを止めようとしている時の音なんです。アパートの管理会社にはあらかじめ伝えていたのですが、改めて気を付けるようにするわ」
 母親は出てくるなりそのように言った。
(事前に準備していたような答えだな。ある程度はこのようなことになることを想定していたってことか……大事なのはここからだな)
「そうなんですね~大変ですね……よかったです。通報する前に聞いておいて……ちょっと気になったことがあるのですが、何歳くらいのお子さんなんですか?」
 「いえいえ、こちらこそ申し訳ございませんね。あらかじめ挨拶に伺ってそう言っておくべきでした……子供は今年で小学校2年生になります。昔よりは少しおとなしくなったのですが、最近環境が変化したせいなのかちょっと子供の精神が安定しなくて……」
(それはあんたのことだろ)
 俺は心の中でそうつぶやく。俺は今の発言が事実と矛盾していることを知っているので、次の行動に移った。
「そうですか……わかりました。ちょっと失礼しますね」
 俺は開いている扉から強引に家に入り、リビングの方向へ向かう。
「なにしているの!不法侵入よ!」
 母親は俺を止めようとするが、俺は構わず振り払いスマホを胸ポケットから取り出し、リビングのドアを開ける。
 リビングを見渡すと、壁際で横たわっている安西舞佳の姿を発見した。ビデオモードを起動しているスマホでその姿を撮影した。
「警察を呼ぶわ。不法侵入で捕まえてやる!」
 態度が豹変した母親は俺をそう言って脅してくる。その姿を撮影しながら俺は答える。
「断りなく入ったことは謝ります。ですが、警察を呼んで大丈夫ですか?実はインターホン鳴らした時からスマホでずっと今のやりとりを撮影しているんですよね。あなたが小学2年生の子が暴れていると言った嘘の発言をしているところもしっかり録音されてますよ」
 俺はカメラを起動しているスマホを見せてそう言った。
「……ちっ。何がしたいのよあんたは」
「俺は1つ提案があってそれを聞き入れてもらいたいと思っています」
 ここで俺はスマホのカメラを切る。そして録音モードに切り替えておく。
「一旦カメラは止めました。ここからは俺のお願いについて話しますね。あなたが虐待をしているその子を解放してほしい。俺が一旦彼女を保護させてもらう」
 俺は端的に自分の要望を伝えた。母親は少し黙ってから答えた。
「あなた知っていたのね。この子が私に暴力を振るわれているってことに。でも、私はあなたの要望には応えられないわ。主人が未成年後見人となっているから主人を交えて話してもらえるかしら。今日は帰りが遅くなるみたいだから明日とかどうかしら?」
「わかりました。ですが彼女を今日このままあなたと一緒にしておくことはできません。一度保護させてもらいます」
「それは……好きにしなさい。明日の夜改めて話し合うってことでいいかしら?」
「明日の夜で大丈夫ですよ。じゃあ今日はここらへんで失礼しますね」
 俺は壁に寄りかかっていた安西のもとへ駆け寄った。
「大丈夫か?自分で立てるか?……ごめんなこんなになるまで助けられなくて」
「……まだ私は大丈夫なのに……どうして……」
「……勝手なことをしてごめんな。でもこんなの間違っているから。とりあえず最低限の荷物を持ってついてきてくれるか?」
 俺は安西にそう言った。安西は目元を拭いてからゆっくり立ち上がり、リビングにあった学校のカバンを取りにいった。
(とりあえずついてきてくれそうで安心した。……それにしても泣いていたようだったな。やっぱり強引にでも助けに入ってよかった)
 俺は胸をなでおろして安西を見守る。準備ができたようだったので俺は母親の方を見て
「ではまた明日お話しましょう。夜分遅くに失礼しました」
「……」
 母親は俺のことをにらめつける。俺はその目線を気にとめず安西と一緒に部屋を出た。
 
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