2人デパートへ

文字数 1,466文字

「あっちい」
 俺は額を流れる汗を拭きながらそうこぼした。日に日に気温が高くなり夏が近づいてきていることを嫌でも実感する。俺と安西は電車で移動して隣町のデパートを目指し歩いていた。
「もう夏だな。暑すぎるぜ。安西さんは大丈夫そう?」
「はい、なんとか」
 隣を歩く制服姿の少女も汗を拭きながらそう答えた。今日は安西の生活用品をそろえるため出かけている。私服すら持っていなかった安西は制服着ている。
(休日に制服姿の女子高生と歩いているとなんか変な勘違いをされそうで嫌だな……)
 俺はなんとしても今日安西の私服を揃えなければと思いつつ、デパートになるべく早く着くよう歩みを進める。
「この町って結構栄えていますね」
 安西は俺の心とは裏腹に呑気に町の様子を眺めている。俺は一人焦っていることが何だか馬鹿らしくなり、安西の話に合わせる。
「そうだな。ここ周辺では一番栄えている町だしね。ここで買い物すれば大体のものがそろう」
「おー、すごいですね」
 相変わらず周囲を見回して感動している様子だ。
(まるで遠くの田舎から都会に出てきた学生って感じだな)
 俺は安西の様子を温かく見守った。

 *

 デパートに着き、中へ入ると日用品が辺り一面に広がっており、その規模の大きさに圧倒される。
 デパートの中は冷房がしっかりと効いており、まるで砂漠の中のオアシスのように感じる。
「あ~生き返るなぁ。さて何から買いに行くかな」
「……」
 安西は目の前に広がる光景に言葉を失っている。おそらくこの手のデパートに来るのは初めてなんだろう
(まずは服を買いに行かなくてはな)
 俺は早速館内フロアマップを見に行き、服が売ってそうな場所を確認する。
(とりあえず上の階の大手チェーン店のこの店に行ってみるか)
 行く場所に目星をつけた俺は安西に声をかけようとするが、隣にいなかった。周囲を見回すと入口近くの商品棚のところにいるのを見つけた。
「おーい、どうした?」
「この小さい扇風機初めて見ました。かわいいですね」
 安西はその扇風機を興味深く見ながらそう言った。
「これはハンディファンって言うみたいだぞ。俺は持っていないけど最近持っている人をよく見かけるな。結構人気のある商品みたいだぞ」
「思ったよりパワーがあって涼しいですね」
 ハンディファンを顔に当てて涼む安西。気持ちよさそうにしている。
「確かに思ったより涼しそうだな。俺もちょっと使ってみていいか」
 安西はこくりとうなずき俺に渡してくる。顔に当ててみると涼しい風がぶわーっと広がり、汗が吹き飛んでいく感じがする。
「おー、意外に快適かも。値段もそんなしないし買ってみようかな」
「そんなすぐ決めちゃって大丈夫ですか?今日ほかにも色々買うかもしれませんのに」
 安西は心配そうに俺を見つめる。
「安西のために買うものは生活必需品だから気にしなくていいよ。これは俺が欲しいと思ったから買うだけだから。せっかくだし2人分買おうか」
「私の分は必要ないですよ。私は興味を持っただけですから」
 安西は少し困った顔でそう答えた。そんな表情をする安西に俺はハンディファンを向ける。
「きゃ」
「そんなこと気にしなくていいの。気持ちよさそうにしてたじゃん。むしろこんないいものを見つけてくれた安西さんに感謝だよ」
 俺は笑いながらそう言った。
「そうですか……ありがとうございます」
 安西はよそよそしい感じでこちらから少し目をそらしそう答えた。
(相変わらず遠慮がちな性格だな。ま、俺はそういう子の方が好きだけど)
 俺はハンディファンを2つ商品カゴに入れてレジへ向かった。
 
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