友人

文字数 2,220文字

「はぁ……どうしたもんかな」
 俺は、スマホを消し家の天井を見つめる。自分の無力感を感じ、ただぼーっと天井を見つめる。最後に公園で安西と話してから1週間ほど経つ。毎回定時上がりで会社を出て、家にすぐ帰る生活を続けている。もしかしたら、安西が俺に助けを求めてるかもしれない。そんなことを考えて、用事が無い時以外は極力家にいるようにした。
(あれから安西大丈夫かなぁ……最近、ずっと物音が続いているし流石に心配だよなぁ。まぁ物音が続いているってことは生きている証拠なんだけど……最近物音が激しくなっている気がするんだよなぁ……)
 安西を見かけなくなってからも、壁越しに虐待が続いていることだけは分かる。安西自身が助けを求めてくれないので、俺にはどうすることもできないが、こうも続いていると心配になる。
 そんな訳でなんかいい方法が無いかスマホで検索するも、前と調べた時から特に進展は無い。
(ネットで調べても無意味なことは分かっているんだけど、つい何もせずにはいられないんだよな)
 俺は気分を変えようとするためにテレビをつけて、バラエティー番組に耳を傾けるが、なんとなく集中できない時間が続いた。
(……あー、もやもやする……)
 そんな時、スマホの画面が光り、何か通知が来たことに気づいた。スマホをとり通知を確認すると、数少ない高校の友人である松本裕樹(まつもとゆうき)からの連絡だった。社会人となった今でもたまに会うような仲で、ここまで長く続いている友人もこいつくらいだ。
 通知の内容を確認すると、
『明日、お前の家の近くの方まで出張に行く用事があるんだけど、久しぶりに夕飯でも食べに行かね?』
 夕飯のお誘いだった。俺は特に用事もなかったので
 『いいね~せっかくだし飲みに行く?』
 と返した。するとすぐに連絡が返ってきて
 『わっりぃ~次の日の朝早いからまた今度で! あと、明日の店選びとか任せてもいい?』
 俺は候補を頭の中でいくつか思い浮かべながら返事を返す。
 『りょーかい 18時駅集合とかで大丈夫?』
 『大丈夫!明日仕事終わったら連絡する~』
 テンポよく明日の予定が決まる。俺は適当にスタンプを返して会話を切り上げた。
(最近考えることばっかだったし、気分転換にちょうどいいな)
 明日のことを楽しみにしつつ、俺はまたバラエティー番組の内容に耳を傾け始めた。

 *

「お疲れさまでした~」
 いつも通り定時あがりを決め込む俺は、まっすぐ目的地に向かう。今日は、松本と最寄り駅集合の予定だ。時間にはまだ余裕があったが、早めに合流いできればいいなと思い駅へ向かった。駅に向かう途中で松本に連絡をしようとスマホを見ると
 『仕事早めに切り上げられたから、駅近の喫茶店にいるよ~』
 とすでに連絡が来ていた。俺は
 『今向かってる。あと20分くらい』
 と連絡を入れて、引き続き最寄り駅に向かった。

 最寄り駅の改札を出ると、松本は既に駅の出口で待っていた。こちらに気づいたようで
「よっ!久しぶり~」
 と声をかけてきたので俺も
「久しぶり~ 最後に会ってから1年以上経ってたんだな。なんかそんな経ってた気がしてなかったのに」
 と返した。そこからは他愛もない会話をしながら店へと向かった。

 俺が選んだ店は、個人で経営している定食屋で月1度くらい利用しているところだ。揚げ物が美味しくて、特にチキンカツ定食は絶品だ。味の割には客が少なく、隠れた名店だと思っている。そういったところも今回ちょうどいいなと思い、この店にした。
「お~ 昔ながら定食屋って感じでいいじゃん!」
「だろ!揚げ物がおススメだからぜひ頼んでみてくれ」
 そういって俺は松本にメニュー表を渡した。俺はいつも通りチキンカツ定食を、松本はエビフライ定食を頼んだ。
「そういえば、彼女はできたか?去年会った時は、いい感じの子がいるみたいなこと言ったけど、あれはどうなった?」
松本は早速恋愛トークを入れてきた。俺は去年のことを思い出しつつ答えた。
「あ~あれな~今でも仲良くしているんだけどね……半年前くらいに彼氏できたみたいでさ。そっからは完全に友達として連絡とってる感じだな……」
「おいおい……俺は今回はいけるんじゃねぇかって期待してたのに泣かせるなあ」
「まぁしゃーないよ……俺は俺のペースで行こうって決めたから。ところでお前はどうなんだよ。彼女と相変わらずうまく続いているのか?」
 松本には3年間くらい付き合っている彼女がいたはず。順調ならそろそろ結婚しそうなものだが
「あ~実は別れた!」
「え~!まじかよ!めっちゃ結婚しそうな雰囲気だったじゃん!去年の話だと」
「いや~俺結婚まで踏み切る覚悟が無かったんだよな。それが彼女にばれて振られちまった!」
「彼女とはどれくらい付き合ってたんだっけ?」
「3年半くらいかな~」
「結構長いこと付き合ってたよな……別れる時結構揉めたんじゃないか?」
「あぁ……大変だったよ……」
 意外な結末に俺は驚きを隠せないでいた。
(俺だったら絶対結婚しているのに……贅沢な奴だぜ……)
 その後も高校時代の思い出や今の仕事のこととかで会話に花を咲かせていると
「チキンカツ定食とエビフライ定食おまち~」
 いつも働いているベテランっぽいおばちゃんが料理を運んできた。俺らは話を中断して料理に手を付ける。
「絶妙な揚げ加減でうまいな!これ!」
「でしょ!」
 松本もこの味を気に入ってくれたようで、お互い黙々と食べ始めた。
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