放課後公園で

文字数 1,858文字

「キーンコーンカーンコーン」
 チャイムが放課後になったことを知らせる。授業が終わりにぎやかになり始める教室。クラスメイト達は今日の出来事や部活の話で盛り上がっているようだ。私は、自分の荷物をロッカーから取り出し、さっさと教室を出ていく。
(授業の内容がちょっと難しくなってきたなぁ……そろそろ期末試験だし勉強時間増やさなきゃ)
 帰り道、今日の授業内容を思い出しながら帰る。最寄り駅につくと、まずは妹の小学校に行く。学童に預けられているので迎えに行かなくてはならないのだ。妹を回収したらそのまま妹を学習塾へ連れていく。小学2年生なので学習塾といっても学校の勉強をサポートするようなものだ。学習塾まで連れていき7時に授業が終わるので、その時間くらいに迎えに行く。それまでは家事を少しやる必要があるが、基本的に自由な時間だ。家にいると気が滅入るので最近は公園で何も考えず暗くなるまでぼーっとしているのがマイブームだ。ベンチに腰掛け空を眺める。
(……いつもは一日の疲れがどっと来るから何も考えられないけど、今日はいつもより疲れてないから少し考える余裕あるなぁ……)
(なんか最近母親がずっと悪いなぁ……環境が変わってストレス溜まってるのかな。まだ耐えられるけど、これ以上エスカレートしたらちょっときついかも……)
 引っ越す以前は、パートや子育てに慣れていたので、そんなに暴力を振るわれることはなかった。だが、ここ最近は新しい職場の人間関係に慣れていないためかストレスが溜まっているようだ。
(あんな性格でよく社会で働いていけるなぁ……まぁ猫かぶってうまくやっているんだろうけど……)
私はここ最近のことを色々と思い出していると、一人の男が私に近づいてくるのに気付いた。
「こんばんは。昨日は付き合ってくれてありがとね~」
「こちらこそありがとうございました」
 最近知り合った藤村さんが話しかけてきた。虐待を受けていることに気づいて私のことを心配してくれる変な人だ。こんな大人もいるんだなと思った。今まで関わったことのある大人は、もっと冷たく淡々としている人が多かった。
「少し元気になったみたいで安心したよ。話聞くくらいならいつでもできるからまた相談してね」
「昨日のおかげでずいぶん楽になったので、しばらくは大丈夫そうです」
 私は、これ以上気を遣わせるのも悪いなと思いそう答えた。つい甘えてしまいそうになるが、また甘えてしまうとこの人を巻き込んでしまいそうで怖い。
「……そっか、そういえば最近この公園によくいるけど、何か理由があるのか?」
「この公園、誰もいないのでとても落ち着くんです。あと、家にあまりいたくないので」
「なるほどね。やっぱり家にいるのは嫌だよね」
「そうですね……とはいえ、学校の勉強をしなきゃいけないので、今後公園に来る時間は少なくなりそうです」
「学校の勉強か……時期的に期末試験がそろそろある感じかな」
「そうです。最近授業の内容が難しくなってきたので大変です」
「高校になるとかなり授業の内容難しくなった記憶あるなぁ……頑張らなきゃだな」
「ですね」
(つい、学校の話しちゃったよ……そろそろ切り上げなきゃ他にも色々と話しちゃいそう……)
「家帰って学校の勉強しなきゃなので、そろそろ帰りますね」
「……あ、ちょっと待って!安西さん携帯とか持ってる?もしよければ連絡先交換しない?なんか心配なんだよね……虐待のこともあるし……あと、話したいことがあったらいつでも連絡してもらっていいからさ」
 藤村は心配そうな表情でそう提案する。とてもうれしい提案だが、私はそれに応えることができない。
「ごめんなさい。お気持ちは嬉しいですが、私は携帯を持っていないので……」
「……そうだよな。ごめんね。……もしなんかあったら俺の家のインターホン鳴らしてよ!大体平日はこの時間以降は家にいるからさ。何か話したいことがある時に来てもらってもいいし!」
「ありがとうございます。その時はお言葉に甘えさせてもらいます」
 私はそう答えたが、インターホンを押すことはないだろう。
 この人は、どこまでもお人よしだからこうでも答えておかなきゃ引いてくれなそうなので少し嘘をついた。
「じゃあ学校の勉強頑張ってな!」
「はい!」
 そういって私は公園をあとにした。藤村は駅の方面へ向かっていった。
(もし、あの人が私の親だったらどんな生活を送っているんだろうな……)
 私は、ふとありもしないことを思い浮かべた。考えるだけつらくなるので、学校の授業内容を振り返ることにした。
 
 
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