角部屋の隣人

文字数 1,548文字

「お疲れ様でした〜」
 終業のチャイムが鳴り響くと、俺は今日1番の速さで帰りの支度をする。周りの職員に最低限の挨拶をしてそそくさと会社の扉から外に出る。
 (めっちゃ眠かったけどなんとか乗り切った〜)
 眠気の峠を乗り越えて、俺はむしろ意識が覚醒し始めた。
 (よ〜し、今日はさっさと家帰ってのんびりしよっと!)
 まだ外は明るく、その明るさがまだ時間に余裕があることを教えてくれる。
 (定時上がり最高だな!)
 家でやることを色々考えながら俺は帰りの電車に乗り込んだ。
 
 最寄りの駅の改札を出た俺は、家に帰ってからのプランを決めつつあった。
 (昔どハマりしたSFアニメでもまた見直そうかな)
 そんなことを考えていると、駅から10分の自宅に辿り着く。
 俺の家は2階建のアパートで、俺は2階の角部屋から1つ隣の部屋(206号室)を借りている。
 借りてから約1年が経ち、生活もだいぶ慣れてきたところだ。
 アパートの階段を登って自分の家に向っていると、角部屋(207号室)の扉の前に1人の少女が立っていることに気づいた。
 その少女は、ドアを開けようとしているみたいだが、よく見ると手が震えている。少女の顔に目を移すと、(俯いて表情まではよく見えなかったが)何か思い詰めている様子みたいだった。
 そんな様子を眺めていた俺のことに少女は気づいたようで、目が合うとそそくさと扉を開けて家の中に入っていってしまった。
 (じろじろ見過ぎたか……)
 俺はちょっと反省しつつ自分の家の扉を鍵をあけた。
 (ま、気にせずさっさとシャワー浴びるか)
 気持ちを切り替えて風呂場へと移動した。
 シャワーとご飯を済ませて完全に自由を得た俺は、帰り道で考えていた昔のアニメ一気見計画を遂行することにした。
 俺は新しいアニメを見るのも好きだが、たまに昔見たアニメを見るのもなかなか(すごく)好きだ。
 そうして、アニメを見始めて1時間程経ち時刻は夜8時、アニメの展開が盛り上がってきて俺は夢中になっていたところで、隣の家から何か物音(大きな足音?)が聞こえてきた。
 (なんだよ!せっかく面白くなってきたのに……)
 あまり物音とか気にするほうではないが、水を差された感じがして少し嫌な気持ちになる。
 (……まぁ、あんま気にしても仕方ないか……)
 切り替えてまたアニメに集中し直そうとするが、また物音(何か壁にぶつかる音?)が聞こえる。
 それと同時に高い声(女性の声)がわずかだが聞こえてくる。壁が厚めのアパートのため、壁の向こうでは相当大きめな音だと思われる。
 (うわ……警察とか呼んだ方がいいのかな?)
 俺は隣の物音に警戒していると、物音はしなくなった。
 このアパートは2LDKで、家族で住んでいる人が多い。
 (俺は独身貴族なので少し高い家賃を払って広々と生活している)
 現在は、一階の角部屋が空いているため、2階の角部屋の隣に住んでいるのは俺だけ、つまり物音が1番聞こえるのは俺だろう。
 隣の家族は半月前くらいに引っ越してきたみたいだ。10日ほど前に、引っ越しの荷物を運んでいる父親と母親の姿を一度見かけたことがあり、その時は両親ともにこちらをみて丁寧な挨拶をしてきた。
 俺も「こちらこそよろしくお願いします!」と(社会人として)しっかり挨拶を返した。
 そんなわけでしっかりした家族である印象だったので特にトラブルになることはないだろうと思っていたのだが、夕方に見た少女やさっきの物音から少し不安を覚える。
 だが、しっかりした家族という印象が先にあるので少女サイドに問題があるかもと思った。
 (まぁ、学校のテストの点数とかやばかったのかな……)
 物音も静まったことだし、特に考えても仕方ないことだと思ったので、またアニメを見始めることにした。
 
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