失恋プロ、最後の教訓

文字数 1,541文字


「お疲れ様でした〜」
 俺は定時になると、周りに軽く挨拶をして会社を出る。少し前までは、夕方でも蒸し暑くて嫌な気分になっていたが、9月に入り少し涼しくなったおかげで、不快な気分にはならない。帰り道を歩く俺はここ最近のことを思い返す。
 (ほんとに大変だったな……)
 約1週間前、舞佳が手紙を残してから俺はずっと舞佳のことを探し続けた。先週は、会社で必要な仕事だけこなしてからすぐ舞佳を探していた。それでも一向に見つからず、途方に暮れてテレビを流し見していると、新宿のニュースが目に入り、以前舞佳と新宿について話したことを思い出した。そこで俺は舞佳が新宿に行ったのではないかと考え始めた。それから俺は、新宿へ向かい舞佳のことを探し始めた。若者を中心に舞佳のことを聞き回った。相手にされないことが多く、心が折れそうになった。それでも、諦めきれず聞き込みを続けていると、舞佳らしき子と話したという少女を見つけた。俺が詳しく聞こうとすると、情報料を求められた。他に手掛かりが無かった俺は、即座に情報料を支払った。少女お金を受け取ると少し笑って「あの子と似て判断が早いのね」と呟き、舞佳がいるであろう場所を教えてくれた。その場所がガールズバーであることを知り、俺は一刻も早くその店へ向かった。店に入ってすぐ、俺はバーのマスターらしき人に舞佳のことを尋ねた。小松と名乗るその男は、舞佳がここで働いていたことを教えてくれた。そして、今舞佳が中年の男を接待しており、ややこしい状況になっていることを知った。俺は小松に舞佳の居場所に心当たりがあるかどうか聞いてみると、場所を特定できると言った。小松は舞佳にスマホを渡しており、スマホを探す機能で舞佳の現在地が分かるとのことだった。小松は、今回の件について舞佳に申し訳なさを感じているようで、俺に協力的だった。そこからは、タクシーを拾いGPSを頼りに舞佳のいる場所へと向かった。舞佳の場所も移動していたため、タクシーの運転手にGPSの情報を共有して追いかけるようお願いした。そして、舞佳に追いつくと今まさにホテルへ連れ込まれようとしているところだったので、俺は全力疾走で舞佳の元へ行き、中年の男から引き剥がした。
 以上が先週起こった出来事である。俺は色んなところを走り回ったせいで、足がずっと筋肉痛だ。じんじん痛む足を我慢しながら家へと帰る。
 家に着くと、夕飯の香りが玄関まで漂ってきていた。リビングに入ると、舞佳が俺に気づき、
「おかえりなさい!」
 と満面の笑みで言った。その笑顔を見て俺は、舞佳を探して良かった。諦めなくて良かった。と心から思った。
 俺は今まで、たくさん失恋をした。そうした中で【焦らずじっくりと楽しむ】【失恋するやつは焦りすぎ】と教訓を得ていた。
 一般的に考えれば、その教訓も間違いでは無いだろう。余裕のある男の方がモテるという話もよく耳にする。
 しかし、それ以上に大切なことがある。【自分の気持ちに嘘をつかないこと】だ。
 焦る気持ちや好きな気持ちを隠そうとして嘘をつくことは、絶対にしてはいけない。今回の件は、俺が舞佳への気持ちを素直に答えなかったことが発端だ。今回は運良く舞佳に再会して気持ちを伝えることができたが、普通はこんな風にはならないだろう。
 そして、俺が最後に得た恋愛においての教訓は【最後まで諦めないこと】だ。俺は今までたくさんの失恋を通して、失敗しない教訓を学んだ。だが、それは成功を諦めた教訓だった。俺は失恋をし過ぎたせいで、失恋に対して臆病になっていただけだった。最後まで失敗し続ける人が、最後の最後で成功をするのだ。
 俺は二度と使わないであろうこの教訓を自分の胸にしまい、
「ただいま!」
 と最高の笑顔で答えた。

 
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