第41話

文字数 768文字

(41) エピローグ
 二階の出発ロビーは天井が高く四階分ほどが吹き抜けになっている。足音も声も衣摺れの音も響いては消える。都会の小さな部屋から転がり出て、これから航空機に乗り空の高さを教えてくれているようだ。
 
 「…どこにいた?」
 「一階の到着ロビーのソファだって…空港の人が車椅子に乗せて連れて来てくれるってさ…」
 「一緒に来るの、あそこまで嫌がるかな…参るな…」
 無彩色の服に白いシューズを履いている人が多い。皆清々しく清潔そうだ。
 兄の晴之(はるゆき)と弟の匡快(まさよし)は、これからも何か起こることを予想して軽い溜め息をついた。
 ……! おやじっ!いたっ!…
 晴之と匡快は車椅子を押されてやって来た父に緊張しながらも安堵した。この旅行をするための準備でほんの数日前に会ったばかりなのに、息子達は遠い過去を振り返る思いで父を見た。

 「衛藤さんですか?……  良かったね、おじいちゃん…」
 世話を焼いてくれた空港職員に丁寧に礼をした二人は、父に向き直って肩の力を抜いた。
 「いやいやー…良かったあ…父さん…」
 「まあ…随分早くに来てたんだね…」
 晴之が父の目蓋をティッシュでそっと拭いた。匡快が携帯用ポットからお茶を()いだ。
 「気分はどう?少し体ほぐさないと…」
 「そのコート、帰りまで空港で預かってもらおうよ…」
 「父さん、荷物確認するね…米…砂糖…」
 「これか、80年持ち歩いてたお祖母ちゃんのお骨って…」
 黒革の印鑑ケースを(ねじ)るように開けた。
 「こんな所で開けるのやめよう…」
 背後を滑るように沢山の人が通過する。
 四人掛けの椅子が人の動線に沿って並んでいる。
 「父さん…なんか食べようか…」
 「弁当でも買って広げる?…」
 「ああ…焼売弁当とか売ってたね…」
 「…なあ…もう半袖の人とかいるよ…」
 「 ……マーシャル諸島、暑くないといいな…」
 
 

 
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