第25話

文字数 633文字

(25) 半分明るい…
 長岡が猛烈に焼けた。大きな空襲が長岡を襲った。 8月1日の夜、10時30分から、1時間40分間、B-29爆撃機125機が、焼夷弾(しょういだん)925トン、162,000発あまりを豪雨のように降らせた。
 焼夷弾は火山弾の様に木造家屋を突き破り、破裂してゼリー状のガソリンを撒き散らし豪火となった。12,000戸、市街地の8割が焼失した。
 
 焼夷弾は工場を破壊する目的で作られた武器ではない。木造の家屋に火をつければ燃え広がるように作られたもので、明らかに民間人とその財産を攻撃する為に作られ、その攻撃が実行された、無差別爆撃である。

 夏でもうっすらと涼しい晩、惣二達は空襲警報を聞いた。訓練通り、防空頭巾を被り必要な物を持って皆で(かたま)って家を出た。
 灯りが全て消された夜の闇の中をサイレンが鳴り続け、音に(しば)り上げられるように防空壕へ入った。湿った土の匂いと人いきれに包まれ、直ぐそこの未来が分からぬまま呼吸ばかりをしている。握り合った手に家族の気持ちが伝わる。
 
 空襲警報が解除された明け方近く、惣二達が壕から出ると、空が半分明るい。何が明るいのか、見える所まで行くと、長岡の町が燃えている。これほど大きな炎があるのか……空を明るくする炎の元で焼けているものは……

 長岡の町は朝になると惨状を露わにした。惣二達の住む隣町まで、風向きによっては、焼けた匂いと異なる温度の空気が届いて来る。何があったのか、少しずつ伝わって来た。肌で感じ目で見える戦争がやって来た。
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