第15話

文字数 811文字

 (15) 着ぶくれてないと…
 雪に埋もれた家々の中で人々は凍らないように眠る。囲炉裏や置き炬燵、湯たんぽや”どてら“で生き延びる。部屋を暖めるまでのエネルギーも無ければ家の造りもそうなっていない。一人一人を暖める身体暖房で暮らす。
 無尽に思える降雪に屋根は悲しむように(きし)み、それを眠りながら聞く。
 
 朝餉の前に屋根の雪下ろしや雪掻きをしないといけない。屋根から下ろす雪。道を作って掻いた雪。町の隙間は雪の壁、雪の丘がそびえ立ち、とにかく雪の捨て所が無い。水の流れを利用して雪を流す溝はまだあまり整備されていない……

 自転車や部品を仕入れている会社が東京にあり、何年か前、雪の積もった日にその会社の人が訪ねて来たことがあった。なぜ雪の中をと惣二は思って憶えている。                
 とっつぁもその人も暇な時だからと言っていた。。
 その人は雁木(がんぎ)の中を歩いて来た。雁木とは、並んだ店の前、玄関の前を長く張り出させた(ひさし)をつなげて、雪の降らないトンネルのような空間の造りだ。

 その人は酒やスルメやかるたを土産に持って来て、昼間から酒宴になった。吐かれる酒の匂いが強烈だった。
 「…武くんっ?…おいでっ…スルメ食べよう!」
 その人は武をあぐらの上に乗せたが、武は酒の匂いにたまらず、その人がスルメを千切っている間に顎を押しやり腕の下から抜け出した。
 その人は明るく笑いながら、とっつぁの事をとても()めていた。
 「今度、東京に遊びに来て下さいよ…」   皆の目の色が変わった。
 あんなに大笑いをしてるとっつぁを見たのは初めてでそれからもそんなとっつぁを見ていない。
 子供達に一度も怒ったこともなく、かといって無口でもない。とっつぁとかかは時々よく喋るが喧嘩をしているのを見たことがない。
 近所の通りの真ん中で、大人の男の人が女の人を強く叩いているのを見たことがある。大人同士喧嘩をするのだと小さな惣二は驚いて震えた。
 
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