第2話

文字数 900文字

⑵ 炸裂する春…
 「ぎゃあーっ…らて…たまげらあ…」と(のぼる)が眉を上げながら言った。
 「ちがうて… ぎゃっ! だっけぇ
ぎゃっ!」
惣二(そうじ)が返した。
 春の新学期も始まって二週間ほどが過ぎた。桜は花びらを降らし、姿を余花に変えた。   
 尋常(じんじょう)小学校が国民学校に改められる前年の昭和十五年、惣二と昇は小学校四年生になった。惣二と昇は家も近所でしょっちゅう一緒にいる。この日、二週間を過ぎたばかりの新任の若い女性教師が、惣二のいたずらが過ぎて途中で帰ってしまった。
 「惣ちゃまさあ…校庭の真ん中らいやー…たまげらあ… よく先生んスカートん中い、あんげぇ手え入れられんねっけ… ごうぎ(すごい)らわ…」
 「…昨日学校い歩いてて、思いついたいやー… えっらく速く手え動かしたらぜってぇ出来るてやあ…」
 「れも惣ちゃまさあ…先生もしパンツはいてなかったらどしたんら?」
 「ノボさあ…先生だっけぇパンツはいてるん決まってるろ…」
 「れもうちの“かか”(母さん)、時々パンツはいてねえろ」
 「着物んときはな、うちのかかも時々…」
 「れも惣ちゃまさあ…パンツ下ろしたあと、あんな先生転ぶて思わんかったてー…」
 「おれも… 本とか沢山抱えてたすけぇ…あんな転ぶて思わんかったし…パンツ下りたら両足で一回飛んだしね…歩くって片足ずつなんら…」
 「そいがー……しても惣ちゃまさあ、惣ちゃまのほっぺた両方真っ赤んなってるろ…」
 「なあんら顔ふくらんだ気いするしね」
 「教頭先生ん顔も真っ赤んなって、怒ってたいやー…」
 「あんげぇ怒ったん初めて見たて…両方のほっぺたずーっと引っ張られてやー ゆすられてやー唇切れたすけぇ…引っ張られてんとき鏡あったらやあ…おもれえ顔んなってたしね…見たかったいやあ…」
 「耳も引っ張られて…水入ったバケツ一日持ってずっと立ってたの後ろで…あんげぇずっとバケツ持ってるなんておれぁできねしね…」
 「黒板の字い沢山読まされてやぁ…もう今日はえらいなんぎしたて…頭にゲンコツくらうと目ん中光るしね…」

 雪国の冬が終わり、吹き始めた風は光るように花びらを運ぶ。
 惣二は、頬を風にあて、春の日の空気を吸い込んだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み