第26話

文字数 828文字

(26) 結局どういう事か……
 1945年、昭和20年、8月15日、水曜日の正午。 工場内で惣二達はラジオの前に集められた。
 天皇陛下により「終戦の詔書」が読み上げられ、惣二は初めて天皇陛下の声を聞いた。
  「………ふかくせかいの……ていこく………ていこくせいふ……べいえい…… …きょうどうせんげん…………あんてい……りょうど……おかす……こころざし………」
 
 ……15歳の惣二に分かる言葉はこれくらいしかない。
 「  ………さいぜんをつくせるに………こうてんせずせかいの………あらたにざんぎゃくなるばくだんをしようして……さっしょうし………みんぞくのめつぼうを……じんるいのぶんめいをも………あかごを……いぞくにおもいをいたせば………たえがたきをたえしのびがたきをしのび………たいへいをひらかんとほっす………しんみんとともにあり………しそんあいつたえ………ふめつをしんじ……みちとおきをおもい………そうりょくをしょうらいのけんせつにかたむけ………おくれざらんことを……」
  
 結局どういう事か、周りの人達の言葉から理解した。…日本は戦争に負けた。 …戦争は終わった。…いつも猛烈な勢いで、勝利への執念を聞かされて来たのにや……戦争はこんな終わり方するんか……兵隊さんは町におらんのに、他所(よそ)のおかかや子供が焼夷弾の炎に巻かれた……もう何かされないんか、どこかへ逃げないんか……白旗を揚げたら済むことなんか…沢山人が死んだて……戦争だから食べるもんが無いて言われ続けて何年も過ぎた… …隣町の長岡では、多くの人が路頭に迷い粗末な板で囲った中で日差しを避けながら横たわっているという。惣二達の町にも人づてで避難してくる人も多くいた。
 もう、炎は降って来ないなら……
 
 …けれど…とっつぁまがまだ帰らない。…もうすぐ2年が経つ。…戦争が終わったならきっと帰ってくるかもしれない。…けれどもう2年……
 15歳の惣二は釈然としない。
 もう昼が過ぎて空腹が力を奪う。
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