第4話

文字数 591文字

⑷ 春風が坊主頭をなでる…
 翌日、惣二はかかに言われた謝り方を思い出しながら学校へ歩いた。まだ顎から頬被りをしている…
 …ええか床に座ったらちゃんと手え付いてお辞儀すれよ… そいじゃ蛙でねかっ……きちんと膝も床につけて……
 
 教務室へそっと入る姿が怪しい。
 「…先生は今日はお休みっだ。しばらく学校お休みだ」両足が同時に跳び上がった…後ろに目の座った教頭先生がいて、突然の全速力で脇を駆け抜けた。
 惣二はちゃんと謝れば済むとうっすら思っていたが、この言葉でますます気持ちが重くなった。
 
 初めて教室の戸を開けて姿を現したあの女先生…目が(こわ)ばって歩く姿が縮こまっている。教壇に置いた手が震えている。声を出すのに間が空く。先生なのに…と惣二は感じた。先生のくせしてや… 
 風呂敷に沢山包んであった本…あんな重い本を抱えて毎朝歩いて…震えていた声は日々張りが出てきたし…黒板に書く字の線は優しくて大きくて目に飛び込んで来た……スカートの中の体温……先生が教科書を読む声……輝くような白い下着……自分のしたことは、ごおぎ(すごい)かけ離れているし……惣二は考えることが多くなった。

 帰り道、昇も何か考えていて無口だ……お互いに考え事をしている。
 四月の風は時々びゅんびゅん飛ぶ。疾風が顔に当たって目蓋を落とし、丸坊主の頭を撫でていく。 二人に向かって大木の大きな緑が風でざざざんと騒いだ。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み