第14話

文字数 904文字

 (14) 尻を弾ませて…
 武が蕎麦(そば)の”のし棒“のように行きつ戻りつごろごろしている……あんにゃがゆっくりとした足取りで座った。皆息が白い。
 もう一度手札のかるたを切り直し、並べてあるかるたもぐるぐると散らした。
 「つっ! つきよ……」
 「へっ…」武より惣二の手が速かった。
 武が自分のどてらをつねっている…
 再び皆構えると、「ねっ!」
 「へえっ」千恵子が先に手を付けた…
 「ねんにはねんをいれよ」あんにゃが良く出来ましたと言うように読み上げた…
 千恵子はこれだけは、と狙いを定めていた。武の白い息が暴れている。
 「おっ!」すかさず久子が目の前の札を上げた。「おににかなぼう…」惣二が久子の札を確認した。「合ってる…」武はいよいよいらいらしてきた。
 「くっ!」「っしゃあ!」武が大きく札を叩いた。「くさいものにふた」あんにゃが微笑んでいる。武が深呼吸をした。
 「いっ!」「しゃっ!」武がまた札を取った。「いぬもあるけばぼうにあたる」武の目に笑みが浮かんだ。
 「なあー、なして犬は歩くと棒にあたるんかあ?」千恵子が突然あんにゃに問いかけた。
 あんにゃが「さあー……?かかあー…なしてかね?」
 花札を持ちながら、かかは「何が…なしてかねえ……?」札に真剣だ。
 「なして犬は歩くと棒にあたるんかね?」千恵子がもう一度。
 かかが「はあー…のおー……棒にあたることもある…くれえかね…」とっつぁがゆるりと微笑んでいる。
 千恵子が「棒でねとだめかね?…」……「ああーもおーっ…もおええっでえっ…あんにゃさあ、早く読んでくんないっ!」武が尻を弾ませている。
 「りっ!」「っはあ! ……おここここ……」武は札を口にあて、おやおやと言うように自画自賛で嬉しそうに体を前後に揺らしている。
 「りちぎもののこだくさん」 
 「かかあ……りちぎもののこだくさん って なにかね?」千恵子がまた訊ねた。
 かかが言葉に詰まった。とっつぁが目線を外した。惣二も「律儀者の子沢山」って何だろうと思った。
 「雨後の(たけのこ)、みてなもんかのー」…千恵子が「ほおー…」と不思議に(うなず)いた。
「ってえ!やあー!あんにゃさあーっ早く次っ!読んでくんないっ!」

 

 
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