第27話

文字数 813文字

(27) しんとしてそこに…
 戦争が終わって、食糧難がさらに(ひど)くなった。戦地や外地から戻った人も増えたが、冷夏による大凶作で出回る米がさらに激減し、戦時中以上に大変な米不足となった。
 都市部には餓死者も出るようになって、戦争が終わったにもかかわらず、大きな食糧危機に直面した。

 武がうるめを獲っている。
 晴れた秋の日、並んだ鰯雲(いわしぐも)が空の果てまで続いている。天気は人々に寄り添わない。人々が飢えても秋の日和(ひより)はしんとしてそこにある。
 武の他にも何人かうるめを獲っている。
 正確には、探している…武はこの年から一人で黙々とうるめを獲るようになったが、秋に入るともう獲り尽くしてしまったのか、朝からうるめの姿を見ない。
 「せつねぇ…」ふてくされたりする元気もないのか、子供の自分にどこかで気づいたのか……ゆっくり立ち上がり、大きく息を吐いて、うるめを探す人達を見つめた。

 惣二の家は…… 工場勤務が無くなり、収入が無い。これまで配給品が無い時、闇物資に頼りながらも、節約してわずかに現金はあるが…… 
 
 かっつぁと幸雄と惣二は仕事を探しながら農家を訪ねたり手に入る食材を探す。
 弟妹達も農家で収穫の手伝いをしたり、川やそこらで食べ物を探す。
 
 秋は道端に食べられる雑草はあまり無い。秋の七草と言われるものも食べられない。辺りに食べられる草はシロツメクサ、オオバコくらいしか無い……秋が深まれば団栗や銀杏が落ちる。
 近くに里山は無い。わずかに雑木林が点在するが、ずっと平野が広がっている。道端の雑草など、他にも獲りに回っている人達が増えた。
 
 千恵子と久子が道端のシロツメクサやオオバコを見つけながらうろうろと歩いて帰途につく。
 かっつぁ達が今日も農家や五十嵐つぁまの所でわずかな食材を手に入れて帰って来た。
  今夜も、シロツメクサとオオバコを入れたわずかなすいとんのおつゆと蒸した小さなさつま芋…今夜はそれに、わずかなイナゴの佃煮だ。
 
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