第13話

文字数 731文字

(13) 犬も歩けば…
 正月、とっつぁもかかも酒は飲まない。というか、飲めるが毎晩飲むほどでなく、倹約をしている。どぶろくも作っていない。炬燵(こたつ)に足を入れて茶を飲みながら、二人で花札の”こいこい“をしている。
 とっつぁもかかも、集中している時、良い役が出来そうな時、勝った時、表情はこの三つしか無い。勝負を楽しんでいる時、表情ははっきりしている。嬉しい予感の時、それぞれ相手の表情を見る。眼差しを交わし合う。相手の存在がささやかな幸せを実感させてくれる時だ。
 
 雪が降る中、子ども達はほとんど外に出なくなった。
 今日はまた「かるた」をしている。
 自転車や部品を東京の会社から仕入れているが、その会社の人がたまにやって来る。このかるたは数年前にその会社の人に土産で貰った。かるたは地方によって色々あるが、これは関東などで一番一般的な「犬も歩けば…」で始まる「犬棒かるた」だ。
 兄妹は上から順番に綺麗に二歳ずつ離れている。
 あんにゃが読み上げ役。皆どてらで着ぶくれて、白い息が立っている。惣二と武がかるたを無造作に並べる。一番下の久子の前に、久子が取り安い向きで二枚並べてある。久子はもうすぐ五歳でやっとひらがなが少しだけ読める。
 「そっ! そうりょうのじんろくっ」
 「へえっ!」惣二がぽんと手を当てた。
 「わっ! われなべにとじぶたっ」
 「へえっ!」惣二がまた取った。
あんにゃが間を置く。
 「はっ! はなよりだんごっ」
 「ひょっ!」また惣二だ。武が眉根を寄せ、目だけがかるたを追ってぐるぐる回り息を詰めている。
 …………あんにゃが読まない。
 「あんにゃさ…?」惣二が()いた…
 「便所……」あんにゃが立ち上がった。
 「あーーんだっ!ってがぁー!」力無く武が転がった……
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み