第22話

文字数 718文字

(22)大人だすけぇ…
 1943年、昭和18年の9月、とっつぁ達は隣組みや知り合いなど、近所の人達に囲まれている。軍属の徴用も(にぎ)やかに送り出される。
 昇のとっつぁも徴用される。風呂屋も二年前から開店休業となっていた… 
 
 彼岸も過ぎて、秋の風が肌をなでる。爽やかな朝の光りの中、惣二達は眩しそうにとっつぁ達を見ている。九月の終わりの朝はもう秋の気配だ。
 一度家で別れを済ませた家族達はただじっと見つめるだけだ。五十嵐つぁまのとっつぁまとおかかも見送りに来て、とっつぁは笑みを浮かべている。
 
 この年の五月に、隣町で生まれ育った山本五十六聯合(れんごう)艦隊司令長官が南方で戦死した。惣二の町にも衝撃が走った。
 既に戦争が始まって六年以上が経つ。町の家族達には多くの死亡告知書が届いているので、名誉の旅立ちと誉めそやしていても、大人は旅立つ者への不安と憐憫(れんびん)の情を心の深い所に隠し持っている。
 七歳の久子はまだ気付いていない。惣二と武と千恵子は自分では分からない不安を抱えている。十五歳の幸雄だけは直接とっつぁに「もしものことがあったら…」と言われてずっと覚悟と向き合っている。まだ十五歳の子にこの覚悟は大き過ぎて、幸雄は内心震えている。
 
 かかは、大人は経験、思い出が多い分、思い出し、感じる事が多く、それが雪崩のように重くのしかかる。「もしものことがあったら…」をかかも何度か耳にした。その度にかかの中のとっつぁが大きく、大きくなって、今日を迎えた。
 皆、しばらくは会えないんだと思い、とっつぁと目が合った瞬間を目に焼き付ける。目に焼き付けた瞬間を大事にしまい込んで、日々家族で出し合って少しでもとっつぁと一緒にいる。そうして日々を過ごしていく。
 
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