第31話

文字数 647文字

(31) 木っ端は無言で…
 「…惣ちゃま痩せたの…」
 「…ノボらて…」二人ともぽつりと呟いた。
 惣二のとっつぁの戦死通知が届いた翌日、惣二はかかと昇の家へ出かけた。かかは昇のおかかと家の中で話し込んでいる。惣二と昇は焚かなくなった無言の釜の前に座っている。
 空は曇り空が当たり前だというように、どこまでも曇りだ。
 
 二人もとっつぁが帰らなくなった事を知った上で無言だ。昇が木っ端を置くと惣二がその上に倒れない木っ端を積む。昇がわずかに涙を拭った。二人は木っ端を見つめながら、とっつぁの居ない世界を考えている。繰り返しながら二人は無言だ。
 「ノボさあ…戦争終わったしね… ぼちぼち釜焚くんろ?」
 「風呂、入りに来っかのー…やっと飯食っとるぐらいだしね…」
 「そいがー…腹減ってばっかだいやー…」
 
 無言で代わりばんこに木っ端を積んで、小さな櫓(やぐら)が出来た。
 「…ノボさあ…そろそろ…『惣ちゃま』やめらて…」
 「惣ちゃま?…」
 「そうらて……もう『ちゃま』違うしのお…」
 「………”ソウ“…… …いやいーや、股(まーた)寒(さーめ)のー」
 「おれらて寒(さーめ)て…… “ソウジ”でええて… いっぺん ”こらっソウジ“ 言ってみ…」
 「…こらっソウジ…」
 「もっぺん…」
 「こらっ!ソウジ!」
 「言ってるまーに慣れるろー」
 「こらっ ……こらっ、こらっ!…」
 「違うしね…」

 秋は暮れるのが早い。曇り空が影を作らないまま薄い暗がりが滲(にじ)んだ。
 二人は冷たくなった尻を上げて手を払った。
 
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