p39 黄ばんだBM菌
文字数 2,077文字
翌朝、耳元に爆音が轟 いてソロは飛び起きた。
「おはようクソ坊ちゃンッ! 」
バンクのクソデカ声が爆音の正体かと思ったが、違う。
奴はどこから持ち出したのか、スネアドラムサイズの和太鼓を肩から下げて、爆音でドラムロールを打ち鳴らしていた。
「ばっ、バカヤローッ。まだ五時前じゃねぇか、近所迷惑だろっ」
「起きろ」
「うるさいっ、オレは『レズギンカ』が鳴るまでいつも寝てんだ」
「言うことを聞かないと打つぞ! 」
要求に従わないソロへ向けて、警告の一打 が和太鼓に放たれた。
ひと際デカく打ち鳴らされたその一撃が、ソロの耳と頭と近所に響き渡った。
「わかった、わかったから。近所迷惑だからヤメロっ」
ご近所の朝を守るため、ソロは仕方なく己 を曲げて起床した。サイアクの目覚めである。
「軍人のくせに和太鼓で起こすな。フツーは起床 ラッパで目覚めんだろ」
「リトル・マッスル! 朝だ、起きろ! 」
要求に従って起きたのに、バンクは和太鼓をリズミカルに打ち鳴らしながらキャピタルを起こしに行ってしまった。
最初 から打つのを止める気は無かったのだろう。ソロはバンクの真骨頂 を見た気がした。
ばっちり目覚めてしまったので、ソロは朝食の準備をすることにした。準備と言っても非常食の乾パンやレトルト食品を並べるだけだが。
何にしても二人のおかげで助かったのである。発掘した食料を、ソロはキャピタルとバンクの為に並べた。
「お前ら、朝メシ出しといたから、勝手に食って出てけよ」
命の恩人たちに対する言い方ではないとソロも思ってはいるのだが、昨夜から柴田バカ兄弟にやられっ放しなのである。
どうせ兄弟ケンカを再びするに決まっている。
バカ兄弟と朝食の時間が重ならないように、ソロは庭でバッタの死骸を掃除することにした。
「やっぱ死骸が増えたな。み空 ゆく捕食者が連れて来るせいかな」
日の出前だから、生きているバッタ共 はそこかしこに密集して休んでいる。
キャピタルが起床したのか、和太鼓の音が止んだ。
やっと静けさが戻ってきて、ソロはホッとした。
だが
「ソロ、ソロ―。メシ食うぞー」
今度はキャピタルのクソデカ声である。
思わずソロは庭に植わっているノウゼンカズラの木の陰に隠れた。
母と祖父が地面に引っ込んでいる今、庭のノウゼンカズラだけがソロの味方である。
「リトル・マッスル。クソ坊ちゃんは勝手に食って出てけって言ってたぜ。いない内に全部食うぞ。いないのが悪いんだから。いないのが悪い」
二回言った。
いないということが、バンクの中ではそんなに重罪なのだろうか。
「家主 抜きでメシが食えるかよ。兄ちゃんには人の心が残ってねぇのか」
「おお・・・・・・、リトル・マッスル。食い意地張ったお前から、そんな言葉が聞けるとは思わなかったぜ。兄ちゃんは嬉しいぞ」
バンクの声が感嘆 に満 ち満 ちている。
目の前でサラッと悪口を言われてたのに、それを受け流すほど感動したのか。
「ソロのヤツ、朝からどこ行ったんだ」
「安心しろ、リトル・マッスル。ヤツはこいつが大好きだから、打ち鳴らせばおびき出すことができる」
バンクが和太鼓を叩く気配を感じて、ソロは仕方なく投降した。
「ホントだァ。兄ちゃんすごぉい」
「そうだろう、兄ちゃんはすごいだろう」
手を叩いて喜ぶキャピタルと得気 なバンク・・・・・・。
消化不良の不本意な気持ちを抱いて食卓に着くと、キャピタルとバンクの凄まじい食欲と勢いにソロは圧倒された。レトルトのパウチを開けたそばから流し込んで、乾パンの類も水分無しで口に放り込んでは飲み込んでいく。
喉に詰まらせた時がチャンスだと思いつつ、ハラハラしながらキャピタルとバンクに水を渡すと、固形物の合間に起用に飲んで、ものの数秒で飲み終えてしまった。
キャピタルが食料を貪 る姿は普段から目にしているが、今朝はそれとは比べものにならない勢いである。
蝗害 のせいで思うように食料が手に入らないから、やっぱり飢えているのかもしれない。
きのこ化が進んで経口摂取 が必要ないバンクですら、この勢い。
必要ない習慣をわざわざ継続しているのだ。口から栄養を摂取するということは相当重要なことなのかもしれない。キャピタルとバンクを見て、ソロは自分の生きる姿勢を見直さなければと思っ
「兄ちゃん、それおれが食おうとしてたやつ」
「うるさい、お前は食い過ぎだ」
「兄ちゃんは官舎 でメシが出るんだからそっちで食えよ」
「小っさい兄ちゃんは、いっぱい食わなきゃもとのサイズに戻れねーんだよ」
「うそつきっ。ソロに流し込んだ黄 ばんだBM菌を回収すればもとに戻れんだろ」
「何だその言い方ア!黄 ばんだBM菌たァどーゆーこったァ! 」
ソロはキャピタルとバンクの食欲を見て、自分の生きる姿勢を見直さなければとまで思ったのに、食料を巡って不毛な兄弟喧嘩が始まるやいなや
『コイツら生に執着しやがって』という理不尽な殺意がグラグラと煮え立った。
バンクが威嚇 で『クァッカラッカッカッ! 』と和太鼓の縁をリズミカルに打ち鳴らす無意味な音が、より一層殺意を引き立たせた。
「おはようクソ坊ちゃンッ! 」
バンクのクソデカ声が爆音の正体かと思ったが、違う。
奴はどこから持ち出したのか、スネアドラムサイズの和太鼓を肩から下げて、爆音でドラムロールを打ち鳴らしていた。
「ばっ、バカヤローッ。まだ五時前じゃねぇか、近所迷惑だろっ」
「起きろ」
「うるさいっ、オレは『レズギンカ』が鳴るまでいつも寝てんだ」
「言うことを聞かないと打つぞ! 」
要求に従わないソロへ向けて、警告の
ひと際デカく打ち鳴らされたその一撃が、ソロの耳と頭と近所に響き渡った。
「わかった、わかったから。近所迷惑だからヤメロっ」
ご近所の朝を守るため、ソロは仕方なく
「軍人のくせに和太鼓で起こすな。フツーは
「リトル・マッスル! 朝だ、起きろ! 」
要求に従って起きたのに、バンクは和太鼓をリズミカルに打ち鳴らしながらキャピタルを起こしに行ってしまった。
ばっちり目覚めてしまったので、ソロは朝食の準備をすることにした。準備と言っても非常食の乾パンやレトルト食品を並べるだけだが。
何にしても二人のおかげで助かったのである。発掘した食料を、ソロはキャピタルとバンクの為に並べた。
「お前ら、朝メシ出しといたから、勝手に食って出てけよ」
命の恩人たちに対する言い方ではないとソロも思ってはいるのだが、昨夜から柴田バカ兄弟にやられっ放しなのである。
どうせ兄弟ケンカを再びするに決まっている。
バカ兄弟と朝食の時間が重ならないように、ソロは庭でバッタの死骸を掃除することにした。
「やっぱ死骸が増えたな。み
日の出前だから、生きているバッタ
キャピタルが起床したのか、和太鼓の音が止んだ。
やっと静けさが戻ってきて、ソロはホッとした。
だが
「ソロ、ソロ―。メシ食うぞー」
今度はキャピタルのクソデカ声である。
思わずソロは庭に植わっているノウゼンカズラの木の陰に隠れた。
母と祖父が地面に引っ込んでいる今、庭のノウゼンカズラだけがソロの味方である。
「リトル・マッスル。クソ坊ちゃんは勝手に食って出てけって言ってたぜ。いない内に全部食うぞ。いないのが悪いんだから。いないのが悪い」
二回言った。
いないということが、バンクの中ではそんなに重罪なのだろうか。
「
「おお・・・・・・、リトル・マッスル。食い意地張ったお前から、そんな言葉が聞けるとは思わなかったぜ。兄ちゃんは嬉しいぞ」
バンクの声が
目の前でサラッと悪口を言われてたのに、それを受け流すほど感動したのか。
「ソロのヤツ、朝からどこ行ったんだ」
「安心しろ、リトル・マッスル。ヤツはこいつが大好きだから、打ち鳴らせばおびき出すことができる」
バンクが和太鼓を叩く気配を感じて、ソロは仕方なく投降した。
「ホントだァ。兄ちゃんすごぉい」
「そうだろう、兄ちゃんはすごいだろう」
手を叩いて喜ぶキャピタルと
消化不良の不本意な気持ちを抱いて食卓に着くと、キャピタルとバンクの凄まじい食欲と勢いにソロは圧倒された。レトルトのパウチを開けたそばから流し込んで、乾パンの類も水分無しで口に放り込んでは飲み込んでいく。
喉に詰まらせた時がチャンスだと思いつつ、ハラハラしながらキャピタルとバンクに水を渡すと、固形物の合間に起用に飲んで、ものの数秒で飲み終えてしまった。
キャピタルが食料を
きのこ化が進んで
必要ない習慣をわざわざ継続しているのだ。口から栄養を摂取するということは相当重要なことなのかもしれない。キャピタルとバンクを見て、ソロは自分の生きる姿勢を見直さなければと思っ
「兄ちゃん、それおれが食おうとしてたやつ」
「うるさい、お前は食い過ぎだ」
「兄ちゃんは
「小っさい兄ちゃんは、いっぱい食わなきゃもとのサイズに戻れねーんだよ」
「うそつきっ。ソロに流し込んだ
「何だその言い方ア!
ソロはキャピタルとバンクの食欲を見て、自分の生きる姿勢を見直さなければとまで思ったのに、食料を巡って不毛な兄弟喧嘩が始まるやいなや
『コイツら生に執着しやがって』という理不尽な殺意がグラグラと煮え立った。
バンクが