p19 仮面の悪霊、よっしゃん

文字数 1,248文字

「ここなら先生いっぱいおる。何も怖いことあらへん。ちょっとだけ避難させてもらお」



 バトーは一番近くにいた海軍兵学校(かいぐんへいがっこう)教鞭(きょうべん)をとっていた強面(こわもて)の学年主任を捕まえるなり「そとはおっかないから、ここにいさせてぇな」とお願いした。


 よりによって、その強面(こわもて)をチョイスするんだ・・・・・・。とソロは思った。


 学年主任はアイスホッケーのマスクを装着しており、普段よりも恐ろしさが際立(きわだ)っているというのに。


「いいでしょう」


 バトーの願いは二つ返事で聞き入れられ、女子の特権というものをソロは目の当たりにした。



「話が途中だったな。ほな、まっしゃんには人やりまっさかい。ヨッシャン、ヨッシャーン」


 バトーが謎の呪文( ? )を唱えると、変な仮面の◇から発光体が出てきた。


 ソロも含め職員室が一気にどよめいた。


 先生方の中にはマイ武器を手に持つ者まで現れ、臨戦態勢に入っている。
 

 発光体はフヨフヨと◇から(ただよ)い出ると、バトーと同じ背丈で同じ服装、白い短髪、真昼の猫のような瞳を持った少年と化した。

 
 額に『◇』、目の下と頬に『へ』を逆さにした赤い模様がある。


 みんなゴーグルとマスク姿の中で、彼だけが素顔を(さら)しているのが妙に清々(すがすが)しく新鮮であった。


「何でんねん。バトやん」


 清々(すがすが)しい見た目にそぐわぬ、こってこての関西弁。


「まっしゃん、コイツは義雄(よしお)や。人のために尽くし、人としての道を踏み外さず、規則を守り、正しい人生を歩いてほしいとの願いを込めてウチが可愛がってた近所の公園に住んどったハイイロペリカンの名を授けた。略してよっしゃんや。ウチの子分や」


「誰が下僕(げぼく)じゃ」


「自分で格下げして、どうすんねん」


 人のために尽くし、人としての道を踏み外さず、規則を守り、正しい人生を歩いてほしいとの願いを込めてペリカンにつけた名を授けられた子分、義雄(よしお)


「中村さん、この発光体なに? 」


 突如目の前で始まった漫才劇に負けることなく、ソロは勇気を出して尋ねた。


 職員室の先生方も注目している。永久凍土から出土したRM菌が世界中に蔓延ってから色々あったが、世の中はまだまだ不思議なことが起こる。


「この取れんお面の悪霊や。知らんけど」


「かぁーっ、悪霊や無いて昨日から言うとるやろがい。わからん娘さんや」


「よっしゃん、今日は一日このまっしゃんとこへ行ったってんか」


「いったい何おましてん」


「腹ぁ空かせた人間にマークされてん」


「コイツがぁ? 」


 ソロはよっしゃんに無遠慮にジロジロ見られて、ムッとした。自分が美少女修行僧でなかったら迷わずメンチ切っているのに。


「こんな痩せ犬、食うとこあるんかいな。なんぞの間違いちゃうのん。山羊のアバラや、アバラ」


 降灰対策の服装で体系もクソもないはずなのに、なんという口の悪さだろう。ソロもそこそこ口が悪い自覚があるが、この義雄(よしお)という悪霊はその斜め上をはるかに飛び越している。


「ばかっ。事情も知らんと何ちゅう言い草や。腹ぁ空かせてる他にも危険要素があんねん。とにかく、今日よっしゃんはまっしゃんのボディーガードや」

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