p11 冷凍庫で霜が降りている祖父の一部

文字数 1,218文字

 その晩、ソロはキャピタルへの別れの挨拶に持って行くための食料を、頑張って自宅であるゴミ屋敷の中で捜索(そうさく)した。


 先祖代々がその辺からかき集めてきたモノというモノ(主成分はゴミ)が外まで溢れ、おまけに庭に生えている木質化(もくしつか)したノウゼンカズラが屋内にまで侵入しているせいで窓が閉まらない有様である。


 養生(ようじょう)テープで隙間を(ふさ)いでいるのだが、バッタ共がどこからともなく自宅に入りまくる。夜はバッタも休むはずなのに、なぜか元気に活動している。自宅でもマスクとゴーグル、フードが外せない。


 食料は所々で見つかるが、賞味期限が切れていたり、包装の上からバッタに(かじ)られていたりで収穫らしい収穫が得られない。


 この美少女(仮)に不似合なゴミ屋敷も、徹底的に掃除をしなくてはならない。ただし、あまりモノを捨てすぎると自宅が倒壊する恐れがある。


 この家は、屋内まで侵入して育ちまくったノウゼンカズラとゴミの山のおかげで大地震の難を逃れたのだ。窓はともかく、大黒柱付近のモノ(ゴミ)とノウゼンカズラは残しておく必要がある。


 (おのれ)が美少女(仮)であることがわかってしまったばかりに、急に忙しくなってしまった。


 学校も留年するワケにはいかないし、そのためには補修と追試を受け単位を取得せねばならない。食料の捜索(そうさく)よりもテスト勉強に時間を割かなければならないのに、腹を空かせたキャピタルなんぞのためにこんなに身を犠牲にして、博愛の化身(けしん)が過ぎる。


「そうだ、冷凍してたじいちゃんが残ってたはず」


 ソロは祖父のことを思い出して、冷凍庫を(のぞ)いた。



 いた。




 黄色い柄に真っ赤な傘の祖父の一部が、霜が降りているものの、結構残っている。


 ソロの祖父と母は去年の11月までノウゼンカズラの木の下に並んで生えていたのだが、諸事情で早めに地上から姿を消して、今は菌糸(きんし)が地面に残るばかりである。


 蝗害(こうがい)と灰の影響を心配したが、灰はそもそもいつでも積もるし、バッタは地面の中まで潜り込むわけではないので例年通り放って置くことにした。


「甘めに煮といて、ってたしか言ってたような・・・」


 去年、キャピタルからそんなリクエストがあった気がする。保存食の進呈はまた別の機会にするとして、明日は甘めに煮た祖父を持って行くことにした。


 やることが一つ減ったので、ソロはもう眠ることにした。


 ゴーグルとマスク、手袋などを装着したまま眠ることにまだ慣れない。ゴーグルに至っては跡が()んで痛いのに、外すとバッタ共がまつ毛を狙って(かじ)りに来るから外せない。


 夜中に何度も寝返りをうって、明け方頃にやっとウトウトして、一番眠たい時に目覚まし時計に起こされる生活を年明けから送っている。


 そして、冬の寒さ。サバクトビバッタが日本にやって来れるほど地球が温まっているとはいえ、冬は寒い。痺れるような冷たさのせいで、眠気がなかなか迎えに来ない。


 年明けから、うたた寝しかしていない。


 せめて誰かに「おやすみ」と声をかけてもらえたら。


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