p3 きのこ三人娘

文字数 1,001文字

「ファ? 」
「さっきから呼ばれてっぞ」

 キャピタルの指先を辿ると、霧雨と灰とバッタの大群の向こうで、手を振っている三人組が見えた。三人が声をそろえて「松本さん」と自分を呼んでいる。
 

 ソロと同じ班の女子たちだ。


「いいなぁ。女子と同じ班で」
 

 キャピタルは複数のカノジョ(うち一体は無機物)と同時進行で交際していることを匂わせているくせに、まだ飽き足りないのか、女子と見れば目移りする。とにかく女子に目が無い。


 女子というだけで可愛いし、その気持ちも何となくわかるのだが、キャピタルがもしかしたら空気中に放っているかもしれない不義理で浮気性の粗悪な成分を女子たちが吸ってしまうといけないので、ソロは無言でヒイラギの木陰から離れた。


「おいっ、おれも連れてけ。置いて行くな」


「うるせー。お前の粗悪なエロ成分が女子の毛穴から入ったらどーすんだ。ついてくんな」


「なんだその言い方はっ」


 ソロの悪態(あくたい)にキャピタルは※お(かんむり)である。

※お冠…機嫌を損ねているさま、怒っているさまなどを表す表現。

 ソロの後について行こうと腰を上げようとしたが、雨で固まった灰にケツがはまって身動きが取れなくなってしまった。

「待て、立てない」
「あんだって? 」
 

 ソロはキャピタルの手を引っ張って立たせようとしたが、固まった灰から脱出できない。


「立てない」
「二回言うなし。三人に手伝ってもらおうぜ」
「お前の言う『三人』って、田中アベイユさんと高橋バンビーナさんと中村ザッヴァトーキョーさんか」

 
 キャピタルは自分と同じ班の男子の名前は覚えてないくせに、女子の名前はフルネームで頭に入っている。


「近くにその三人しかいないんだから、当たり前だろ」
「こんなカッコ悪い状態、見られたくない。なんとかお前一人でベストを尽くせ」
「ゼイタク言うな」


 こんなところに放置したら服の上からバッタに(たか)られて食われてしまう。
 

 しかしキャピタルの気持ちもわからないでもない。
 

 雨で固まった灰にケツがはまって動けないなんて女子に知れたら、カッコ悪すぎて二度と顔を晒して歩けない。


「わかった、引率の先生呼んでくる」
「それならヨシ。お前にしちゃ上出来だぜ」
「うるせークソ野郎」
 
 とはいっても、ソロは体内の菌類が少なすぎて、発声しないと、きのことコミュニケーションが取れない。

 ソロよりもきのこを極めており、なおかつ口が固そうな者に頼むしかない。


「ちょっと待ってろ」

 
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