p68 留年の理由
文字数 1,484文字
これは、ひどい。言われた方は怒って良い。
「テメーなんか、おれより留年してんだろがッ」
負けじとキャピタルが噛みつく。
しかしリョウは体が弱くて出席日数が足りず、しかたなく留年していたのであって、キャピタルのように選択科目の試験申請を忘れ去り、通常試験も回答を問題用紙に書いてしまい、病気でも何でもないのに出席日数が足りず留年確定してしまったわけではない。
暮れなずんでしまっているキャピタルよりも、性格が悪くても美丈夫のリョウが麗 しくて、ソロの瞳は潤んでしまった。
やっぱり諦 められないのである。
そんな瞳を濡らしているソロに、突然、土俵を横切ってリョウが降りて来た。
おもむろに肩を掴まれ、リョウの唇にソロの耳が引き寄せられた。
季節の始まりに伴う、雨の香りがした。
「リョウってば、今まで冷たかったくせに、こんな場所で突然耳たぶにキスされても困る。でも、やぶさかではない」とソロが恥じらいを胸に秘めつつ思い上がったその瞬間
「お前と
当人以外、誰にも聞こえないであろう意地の悪い囁 きに、キス待ちしていたソロの期待は大きく裏切られた。
その通りだった。
バンクからも、浮島でも、み空行 く捕食者からも守られて、いつまでたっても守られてばかりで、これでは親子ではないか・・・・・・。
「惹かれ合い、慈しみ合うには釣り合わない」
リョウに更に畳み掛けられて、ソロは情けなくて泣きそうになってしまった。
だが、ふと、妙な違和感を覚えた。
今にも緑眼の同心円へ変化してしまいそうなリョウの顔を見上げて、ソロは全てに合点 がいった。
ソロはリョウの腕を払い、勢いをつけてその胸板に張り手をぶちかました。
その胸板のたくましいこと。細身のくせに固くて厚くて、ソロの手の方が痛くなってしまうほどである。
威勢の良い音と共に、リョウの胸板にソロの赤い手形が浮き上がった。
「バーカ! アホ! うんこ! 」
自由闊達 に暴言が吐けるとは、なんと気分の良いことか。
「松本、てめぇ」
リョウの瞳が、一瞬同心円を描き、ソロの頬を張り倒した。
力を加減されて引 っ叩 かれたことがすぐにわかり、山より高い男のプライドに障 った。
同心円に一瞬睨 まれたって、まだ人間部分が多いソロは、怒りの感情で抗 うことができる。
怯 んでなどいられない。
「こんなとこでお喋りしてる場合かよ。このまにまにがッ」
「まにまに? 」
「こんなトコでまにまにしてねぇで、とっとと戻れッ」
ソロはそばにあった塩をありったけ引 っ掴 むと、リョウに向かって撒 いた。
「なんだ急に、狂ってんのか」
リョウも思い切りソロに塩の塊を投げつけてから土俵溜まりへ戻った。
山より高い男のプライドと、自分に危害を加える者には何が何でもやり返す無鉄砲さが戻ってきたソロの変化に、キャピタルが「おっ」となった。
「なんだよ、お行儀よくしてたのが急に」
留年野郎と罵 られたことを、すっかり忘れたかのように、ソロの変化に感心している。
「うるせーバカ。お行儀よくするキャンペーンをちょっと開催してただけだッ」
「なんのために開催してたんだ。無意味にもほどがあんだろ」
「いちいち意味なんか求めてんじゃねーよ、この欲しがりがッ」
土俵の上で反抗的だったよっしゃんも、担任の武器である鉄の処女に柔 らかに抱 かれ、やっと準備が整った。閉じた鉄の処女からよっしゃんの情けない声が聞こえてくる。
「んじゃ、行っとくわ。右の腕 が強いんですってとこ、とくと見とけよ」
「テメーなんか、おれより留年してんだろがッ」
負けじとキャピタルが噛みつく。
しかしリョウは体が弱くて出席日数が足りず、しかたなく留年していたのであって、キャピタルのように選択科目の試験申請を忘れ去り、通常試験も回答を問題用紙に書いてしまい、病気でも何でもないのに出席日数が足りず留年確定してしまったわけではない。
暮れなずんでしまっているキャピタルよりも、性格が悪くても美丈夫のリョウが
やっぱり
そんな瞳を濡らしているソロに、突然、土俵を横切ってリョウが降りて来た。
おもむろに肩を掴まれ、リョウの唇にソロの耳が引き寄せられた。
季節の始まりに伴う、雨の香りがした。
「リョウってば、今まで冷たかったくせに、こんな場所で突然耳たぶにキスされても困る。でも、やぶさかではない」とソロが恥じらいを胸に秘めつつ思い上がったその瞬間
「お前と
リョウ
ときたら、まるで幼い母親とその子供だ」当人以外、誰にも聞こえないであろう意地の悪い
その通りだった。
バンクからも、浮島でも、み
「惹かれ合い、慈しみ合うには釣り合わない」
リョウに更に畳み掛けられて、ソロは情けなくて泣きそうになってしまった。
だが、ふと、妙な違和感を覚えた。
今にも緑眼の同心円へ変化してしまいそうなリョウの顔を見上げて、ソロは全てに
ソロはリョウの腕を払い、勢いをつけてその胸板に張り手をぶちかました。
その胸板のたくましいこと。細身のくせに固くて厚くて、ソロの手の方が痛くなってしまうほどである。
威勢の良い音と共に、リョウの胸板にソロの赤い手形が浮き上がった。
「バーカ! アホ! うんこ! 」
「松本、てめぇ」
リョウの瞳が、一瞬同心円を描き、ソロの頬を張り倒した。
力を加減されて
同心円に一瞬
きのこ
の習性に蓋をできる。捕食者に殺意を向けられると体が硬直してしまう恐怖に、「こんなとこでお喋りしてる場合かよ。このまにまにがッ」
「まにまに? 」
「こんなトコでまにまにしてねぇで、とっとと戻れッ」
ソロはそばにあった塩をありったけ
「なんだ急に、狂ってんのか」
リョウも思い切りソロに塩の塊を投げつけてから土俵溜まりへ戻った。
山より高い男のプライドと、自分に危害を加える者には何が何でもやり返す無鉄砲さが戻ってきたソロの変化に、キャピタルが「おっ」となった。
「なんだよ、お行儀よくしてたのが急に」
留年野郎と
「うるせーバカ。お行儀よくするキャンペーンをちょっと開催してただけだッ」
「なんのために開催してたんだ。無意味にもほどがあんだろ」
「いちいち意味なんか求めてんじゃねーよ、この欲しがりがッ」
土俵の上で反抗的だったよっしゃんも、担任の武器である鉄の処女に
「んじゃ、行っとくわ。右の