p67 審議
文字数 1,613文字
そもそも序の口以下なんて存在しないし、幕下以下 の取組 に懸賞旗 が巡るのは異端だが、美声の教頭の呼出 でそこそこサマになっている。
そもそも懸賞旗 のアナウンスだって、本来、呼出がやるものではない。
「多いな、伊藤園推 し」
国内屈指の老舗企業に加え、勇猛果敢な強者揃 いの飲料メーカーである。ソロも一単元 欲しい企業であるが、子供が手にできるような株価ではない。
懸賞旗 を掲 げる呼出 の中に、アベイユとバンビーナとバトーがいた。
全員、画用紙で簡易的に作成したトリガーハッピーの懸賞旗 を掲 げている。
ソロも『シロネコ宅急便』という浮島出身企業の懸賞旗 を作って参戦すれば良かったと悔やんだ。ソロが一単元 購入するために貯金しているのは、この企業の株である。
「義雄 さん、いけません。懸賞旗 に個人の名前や特定できる肖像を描いてはダメです」
バトーの後ろから、へったくそな字で『ざつぱとうきよう』と書かれた懸賞旗 を掲 げたよっしゃんが土俵へ上がろうとしていた。
お間抜けな仮面の絵まで描いてある。
いくらへったくそでも、こんな懸賞旗 では中村ザッヴァトーキョーだと特定されてしまう。
「アカンのん? 」
「いけません」
担任教師と教頭、その他呼出 が集まってよっしゃんの懸賞旗 の審議 が始まった。
「オヤジがさ」
「あん? 」
審議中の土俵を見上げながら、不意にキャピタルが話しかけてきた。
「ヒゲも髪も伸ばし放題でなんだかよくわかんない生き物だったんだけどさ、急に床屋行きたいって言い出したんだ」
「ふーん」
自分がブン殴られたことよりも、サンタが床屋へ行ったことの方が衝撃だったのだろうか。
「サッパリしたオヤジ、おれ、久しぶりに見た。兄ちゃんをジーサンにしたみたいで、ソックリだった」
最近はずっと、あの昔気質 のサンタクロースだったということか。
無人島から生還したばかりではなかったのか。
「姉ちゃんに話したら、ビックリしてた。ジーサンになった兄ちゃんみたいだって言ったら、兄ちゃん激激 に激怒 してたけど。ていうか昨日、兄ちゃんが血だらけで現れてビビったわ。ところどころ肉みたいなのついてるし臭 っさいし、なんか知らねぇけどいきなり超不機嫌だったし」
奴が自分に関係のないことで激激 に激怒 すると愉快である。
「兄ちゃんが来たとたん避難所が」
キャピタルも笑いが込みあげて耐え切れなくなったのか、急にふき出した。
皆まで言わずとも何が起こったのか大体予想がつく。
ソロとキャピタルは、これでもかというくらい笑い合った。笑いすぎて二の腕の筋肉痛に障 ったが、小岩駐屯地 の皆さんがバンクに勝利し、人妻を奪還 したのも気分が良い。
「オヤジさ、フシギなことを口走ってたんだ」
「なんだ」
「お前が浮島のじょおうさま紹介してくれる、って」
「ああ、あれか」
あのサンタには二度と会わぬ。その件は捨て置いて構わないだろう。
「なんだよ、お前。浮島にじょおう様なんていたのかよ。いつ会ってたんだよ、オヤジと兄ちゃんにナイショでおれにも紹介しろよ。ヒトが悪すぎるぜ」
「お前だってばっちし会っただろ」と言いかけて、ソロは思い出した。
キャピタルが菌類と会話できないことを。
「義雄 のヤツ長いな。髷 ゆう時間あるわ。ソロ、頼むわ」
「できるわけねーだろ」
道具も技術も何も無いのにムチャ過ぎる。
「ちぇっ。鬢 つけ油 くらい持っとけよ」
「あんだテメーこのまにまにが」
ソロは持っていた国語の教科書で暮れなずむキャピタルをぶッ叩 き、キャピタルも近くにあった座布団をソロに投げつけた。
「知らんやんかいさ! ワシ! 」
土俵の上で審議が暗礁 に乗り出したよっしゃんもヒートアップし始め、バトーの制止も聞かずに暴れている。呼出 失格である。
「いい加減にしろ! 」
怒気 をはらんだリョウの声がこだまし、場が静まり返った。
まだ拍子木 も打ち鳴らされていないのに、リョウは土俵に上がりキャピタルを挑発した。
「上がって来いよ、この留年野郎」
そもそも
「多いな、伊藤園
国内屈指の老舗企業に加え、勇猛果敢な
全員、画用紙で簡易的に作成したトリガーハッピーの
ソロも『シロネコ宅急便』という浮島出身企業の
「
バトーの後ろから、へったくそな字で『ざつぱとうきよう』と書かれた
お間抜けな仮面の絵まで描いてある。
いくらへったくそでも、こんな
「アカンのん? 」
「いけません」
担任教師と教頭、その他
「オヤジがさ」
「あん? 」
審議中の土俵を見上げながら、不意にキャピタルが話しかけてきた。
「ヒゲも髪も伸ばし放題でなんだかよくわかんない生き物だったんだけどさ、急に床屋行きたいって言い出したんだ」
「ふーん」
自分がブン殴られたことよりも、サンタが床屋へ行ったことの方が衝撃だったのだろうか。
「サッパリしたオヤジ、おれ、久しぶりに見た。兄ちゃんをジーサンにしたみたいで、ソックリだった」
最近はずっと、あの
無人島から生還したばかりではなかったのか。
「姉ちゃんに話したら、ビックリしてた。ジーサンになった兄ちゃんみたいだって言ったら、兄ちゃん
奴が自分に関係のないことで
「兄ちゃんが来たとたん避難所が」
キャピタルも笑いが込みあげて耐え切れなくなったのか、急にふき出した。
皆まで言わずとも何が起こったのか大体予想がつく。
ソロとキャピタルは、これでもかというくらい笑い合った。笑いすぎて二の腕の筋肉痛に
「オヤジさ、フシギなことを口走ってたんだ」
「なんだ」
「お前が浮島のじょおうさま紹介してくれる、って」
「ああ、あれか」
あのサンタには二度と会わぬ。その件は捨て置いて構わないだろう。
「なんだよ、お前。浮島にじょおう様なんていたのかよ。いつ会ってたんだよ、オヤジと兄ちゃんにナイショでおれにも紹介しろよ。ヒトが悪すぎるぜ」
「お前だってばっちし会っただろ」と言いかけて、ソロは思い出した。
キャピタルが菌類と会話できないことを。
「
「できるわけねーだろ」
道具も技術も何も無いのにムチャ過ぎる。
「ちぇっ。
「あんだテメーこのまにまにが」
ソロは持っていた国語の教科書で暮れなずむキャピタルをぶッ
「知らんやんかいさ! ワシ! 」
土俵の上で審議が
「いい加減にしろ! 」
まだ
「上がって来いよ、この留年野郎」