p17  罪につり合わない罰

文字数 1,507文字

 灰が止んだ道路は既に路面清掃車と散水車が走った後で、バッタ共が視界を悪くしているのみであった。


 エネルギー関連企業が有料で灰を買い取ってくれるようになってから、道路の脇に放置されていた灰がいつまでも残っていることが少なくなった。


 瑞江(みずえ)駅への道のりで車は一台も見かけなかったが、公共交通機関は通常通り運航していた。
 地上も地下も電車内もバッタが飛び交っているが、日常となり果ててからは、もう誰も気にしていない。


 電車に揺られて一之江(いちのえ)の駅に到着すると、見覚えのある後ろ姿が視界に映った。
 

 水色のフード付きパーカーに灰色のズボン、フル校の校章バッジが付いたリュック。
 

 中村ザッヴァトーキョー、略してバトーだ。昨日のアベイユの容態が気になって、ソロは勇気を出して声を掛けた。


「なかむらさ」
「おっ、まっしゃんか。おはようさん、アゴ大丈夫か」
 振り向いたバトーを見て、ソロはギョッとした。
「その顔」
 バトーは顔面に謎の仮面を張り付けていた。


 へのへのもへじの『の』が『〇』に、『も』が『|』に、三文字目の『へ』が『◇』のふざけた柄の仮面を。

   へ  ヘ     ヘ  ヘ   
   の  の now! 〇 | 〇
     も   ➡    ◆  
     へ                 


「これか。昨日ふざけて(かぶ)ったら、取れんようなってもうた」


「もしかして、それ、昨日拾った謎の落とし物? 」


「せや。しょうむないから、装着してガッコ来たんよ。ウチ、補修と追試残ってんねん」


「オレも・・・・・・」
 

 地上に出ると、より一層バッタの数が増した。晴れているのにバッタのせいで(かげ)っている。
 

 お間抜けな仮面をつけて隣を歩いているバトーが自分よりも小さくて、ソロは思わずキュンと来た。


「ま、蝗害(こうがい)でちょうどええわ。気にせんと話しかけてくれやっしゃ」


「うん・・・・・・」


「放課後アベイユのお見舞い行くで、三人で一緒に行こうな」


「昨日どうだった? アベイユは元気って言ってたけど」


「外傷のみで中身は無事やって。傷口が(ふさ)がり次第退院やけど、サイズがサイズだからな。外出すとまた(かじ)られるかもわからんから、もしかしたら蝗害(こうがい)が終わるまで入院かも。アベイユは頭良(あたまえ)えから、テストの追試も補修もクリアしとって、進級も確定やから」


 なんて羨ましい。頭が良くてカワゆイとか、究極生命体ではないか。


「ほな、追試終わったら一之江(いちのえ)のコメダに集合な。行けんようなったら菌根菌(きんこんきん)か端末に連絡いれて」


「オレ、声出さないと菌根菌(きんこんきん)届かないんだ。端末も持ってない」


 先ほどから、ソロは不思議でならなかった。女子の前で()まずに普通に喋っている自分が。


 ひょっとしたら、美少女になるという固い決意が既に体内に作用していて、女子が同性と化している分、気安くなっているのか。


「そんなら、どないしよ」


「おれの端末つかえばいいだろ」


 突如現れたデカい影に、ソロとバトーは固まった。


 キャピタルである。
 視界に入った瞬間、反射的にロッシーニの『タランテラ』がソロの中で流れた。いつもこの曲が回って来るタイミングで、キャピタルと校門前で顔を合わせてしまうからである。
 いつもハミングしている『ウェラーマン』がキャピタルと遭遇しても流れてこないのは、単純に下手くそだからである。


 ゴーグルとマスクで顔は見えないが、なんだか腹を空かせているような雰囲気を(かも)しているように見えた。


「おっ、キャピタル。ちょうどいいとこに来たな。オメーにしては上出来(じょうでき)だぜ」


 ソロは美少女修行僧の身であることを忘れ、つい地が出てしまい慌てて訂正した。


「オメーに、じゃない、きでんにおじいちゃん持ってきた」


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