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文字数 1,190文字

 命からがら公園に戻ってくるなり、アベイユは救急車で搬送(はんそう)されることとなった。
 社会科見学も中断。一斉帰宅となった。


 遭遇(そうぐう)した捕食者が弱っていたことから、バッタの脅威にのみ注力すれば安全に帰宅できるだろうとの判断が下った。


 学校側は軍と警察の出動を要請したが、蝗害(こうがい)に手が掛かりきりで人員を()けないという返答だったそうだ。軍と警察の対応に壺頭(つぼあたま)の公民教師は怒っていた。
 表情はわかんないけど「もうっ」とか言ってたから多分怒ってた。


 ソロはバンビーナとバトーと共に、ミニ担架(たんか)で運ばれるアベイユのもとへ行った。
 頭に応急処置の絆創膏(ばんそうこう)が貼られていて、可愛いに拍車(はくしゃ)が掛かっていた。


「ごめん、アベイユ」
 というのは建前で、捕獲したい。


「松本さんのせいじゃないよ。気にしないで」


『話したいことがあるから、もしよかったら付き添って』


 アベイユの声が菌根菌(きんこんきん)に届いた。
 ソロは声を出さず、(うなず)くにとどめた。


「松本さん、僕、痛いけど元気だから大丈夫だよ」


「ホントに元気? 」
「おれとどっちが元気ですか」


 突如現れた巨大なシルエットに、ソロとアベイユとバンビーナとバトーの体が強張(こわば)った。


 キャピタルである。


「キャピタル、先にオレんち行ってろし」


「いっしょに行くしぃ」


「さき行って待ってろし。鍵掛かってないの知ってんだろ」


 ソロは外出時に鍵をかけない。


 既にドロボウに荒らされた後よりも酷い状態だから、何者かが侵入しても、よっぽどのことが無い限りその痕跡(こんせき)を見つけることができない。


 そして盗られるものを探す方が大変なのである。


 キャピタルにあげようと思っている食料も、どこにあるのかわからないので、これから一緒に探すつもりだ。


『ソロ、ソロ、ソノヒトコワイツレテッテ』
『コワイヨゥ』
『コワイコワイヨソノヒトコワイ』


「 ファっ ! ? 」


 ソロはアベイユ、バンビーナ、バトーから一斉に菌根菌で訴えかけられた。


 しかも全員恐怖でカタコトになっている。
 遠くから見る分には支障はないが、近くに来ると怖いのか。 


 しかし、ソロは発声しないと菌根菌で会話ができない。
 なぜ三人がキャピタルを怖がるのか知りたいが、本人の目の前ではさすがに聞けない。


『ソノヒトタベモノミルメデボクヲミテルョ』
『タベモノミルメデキノコヲミテルヨ』
『オナカスカシテコッチヲミテルヨ』


「そんなこと」


思わずそこまで言いかけて、「そんなことあるかも」とソロは思った。


キャピタルは腹が減っていると手段を選ばない。


アベイユなど特に、うっかり食されてしまうかもしれない。
油断していたら自分くらいのサイズでも食われてしまうかもしれない。


学校にいる時はほぼ一緒にいるから、多分骨まで残さず食べてくれると思う。


「アベイユ、あとでお見舞い行く」


「おれもいきます」


「お前はオレんちに行くのっ、今すぐっ」


ソロはキャピタルの服の裾を掴むと、一生懸命引っ張って駅まで連行した。

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