p36 おれだけのターミネーター

文字数 1,008文字

「去年BM菌を流し込んだ時に、俺のたまりにたまった不摂生(ふせっせい)も一緒について行ったようだな。1月の健康診断でコレステロールから何から何まで健康体で、何の奇跡かと思ったが」


 またもバンクが会話に割り込んできた。
 おまけに、ソロの動悸(どうき)の原因の答えを述べている。


「そういや兄ちゃん、暴飲暴食酒タバコ黄ばみ内臓脂肪肥満高血圧高血糖運動睡眠不足肩こりストレス尿たんぱくに加えて不整脈ぽくなってなかったっけ」


「その通り。だが今は全て解消されている」


 とんでもないことをしているのに、バンクは超得意気(ちょうとくいげ)である。
 長年の生活習慣病が全て解消して健康を手に入れたのだから、絶好調で当然か。


「ふ、ふざけんじゃねーっ! なんでテメーの長年たまった不摂生(ふせっせい)のツケをオレが払わなきゃなんねーんだよっ。今すぐ引き取れっ」


 ソロがいちいちトキめいていたのは恋の予感ではなく、ただの不整脈の初期症状だった。
 しかも、他人の長年の不摂生が原因で。
 市場のラブ高がのきなみ下落してしまい、不整脈(医薬品)銘柄と幻覚(バイオ)銘柄が突如上場してしまった。


「キャピタル・・・・・・」
「なんだ。兄ちゃんのきったないBM菌を、おれに引き取れとかいうなよ」
 実の兄貴のBM菌に対し、辛辣(しんらつ)である。
「オレ、お前の現実ナメてた。お前が身を置いてる環境は、幻覚程度じゃ現実逃避できねぇ。悪かった」
「わかりゃあ、いいんだよ」
「どうする。オレは今晩、お前だけのターミネーターだ」
「実の弟に暗殺企画もってくんな」
「一回くらい殺してもいいだろ」
「どうやって暗殺する。兄ちゃんは無敵だぜ」
 ソロの持ってきた企画にノリノリの実の弟である。
「大きな音でビックリさせる」
「そのていたらくでよくもターミネーターを名乗れたな」
「じゃあユーカリを食ってもらう」
「コアラのエサじゃねぇか」
「食ってるコアラも意識が遠のく毒劇物(どくげきぶつ)だ。イケるはずだ」
「ヤル気あんのか。その程度のどくげきぶつじゃ軽くあせもができて終わりだ」


 キャピタルはまるで一度試して失敗したかような口ぶりである。(きょう)が冷めたのか、寝返りをうってソロに背を向けた。
 キャピタルの顔面が()せて、ソロはスッキリした。
「届け! 俺の祈り! 右手のオクターブ届きますように! 」
「うるせー寝ろっ」


 ソロは『み(そら)ゆく捕食者』には戻ってきてもらって、ちょっと食べられてもいいからリョウの甘い(まぼろし)(ひた)らせてほしいと思った。
 昨日の今日で、こんな現実は地獄すぎる。




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