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文字数 1,465文字

 バッタが飛び交う教室に黒衣のペストマスク姿の教師。
 数学ではなく闇魔術の授業のよう。


「なんやここもバッタだらけかい、※うっといな」
 ※鬱陶(うっとお)しい。


 いかにも空気の読めないよっしゃんが、突如、光り出した。


「何ですかこの方は。急に光り出して」
「あ、ウチの子分です。義雄(よしお)いいます。このお面に取りついとる悪霊です」
「中村さん、どうしたんです。その仮面」
「昨日の課外授業で拾ったんですけど、装着したら外れなくなってもうたんです」
「それは大変ですね。学校へ来てる場合ではないのでは? 」
「ウチ、追試と補修立て込んでますのや。ガッコ来ないと留年してまう」
「困りましたね。それで、義雄(よしお)さんはなぜ光っているのですか。中村さんも少し火花が散ってますね」
「義雄は教室内のバッタを消そうとしてます。ウチと協力しないとでけへんので、やってもええでっしゃろか」
「やってごらんなさい。成功したら三人とも授業に出席することを許しましょう」
「ほな、よっしゃん。やりまほか」


 バトーの仮面が上下ぐるりと反転すると、よっしゃんの体が眩しいほどの光を放ち、ソロは目を開けていられなくなった。


 線香花火の散り際のような音があちこちから聞こえ、焼け焦げたような臭いが周囲に漂った。
 目を開けると、教室に飛び交っていたバッタは全て地面に落ちていた。
 一匹たりとも飛行していない。


「素晴らしい。本来ならば校長先生がやる仕事を、中村さんたちはできるのですね」


「なあカラスのセンセ。ワシ、バッタならいくらでも退治しまっせ。バトやんの追試と補修、免除してくれへんか」


義雄(よしお)さん、それはできません。学力が追い付かなくては、進級しても留年してしまうでしょう。思考の為には確かな知識が不可欠なのです。正攻法で乗り越えてください」


 バッタがいなくなったことで、教室から歓声が上がった。
 ゴーグルとマスクを外して、食料を口に運ぶ生徒が続出している。


「ま、イイでしょう。食べたい方は食べながらで結構です、授業を再開します。中村さんは義雄(よしお)さんと一緒に、あとで職員室へ来るように。大事なお話をすることになります」


 数学の先生もマスクを外し、久しぶりの開放感に目を細めている。闇の授業感が薄まった。


「まっしゃん、よっしゃんも一緒に呼び出し食らった。どうしよ」


「オレなら平気だよ」


「危機感が足りひんのや。まっしゃんは美少女である前に食料でもあるんやで」


 そういえばそうだった。美少女(仮)で弱者だった。忘れていた。


「ヒソヒソなに話しとん。ワシも混ぜんかい」


「よっしゃんはまっしゃんに付け。ウチはバンビんとこ行く。ほな頼むで」


 一応、ソロは軽くよっしゃんに頭を下げて、いつものようにキャピタルの隣に座った。
 

「遅かったじゃねーか」


 素顔のキャピタルの顔を久しぶりに見た。
 リボンがモチーフのカチューシャで前髪をオールバックにしているのも健在だ。


 マスクとゴーグルの跡に赤みが少しと、ちょっと頬がこけているが、元気よく弁当を食ってるので健康には問題なさそうだ。ソロがあげた祖父の煮つけ( ? )もしっかり完食している。
「ちょっと用事があったんだよ」
「で、その発光体はなんなん? 中村さんの()れ? 」
「ワシはバトやんの第一の下僕(げぼく)


 またもや自ら格下げしている。第一のということは、第二、第三が控えているのか。


「人のために尽くし、人としての道を踏み外さず、規則を守り、正しい人生を歩いてほしいとの願いを込めてバトやんが可愛がってた近所の公園に住んどったハイイロペリカンの名、義雄を譲り受けた。略してよっしゃんや」


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