p84
文字数 2,277文字
「おれも思わせぶりなことをして悪かった。あんなときに『姉ちゃんは夜勤でまだ帰って来ない』なんて口走って」
「オレの話聞けし」
そもそも『劣情 』なんて単語、どこで仕入れたのだろう・・・・・・。
「あれは恐怖のあまり『姉ちゃんはまだ帰って来ないから、変なこと考えないでください』って、お前をけん制 するために言ったんだけど、むしろ逆効果だったよな」
あの性的な単語にばかり蛍光ペンで印 がついている自前 の国語辞典だろうか・・・・・・。
「お前が外へ出て行ったとき、おれはマジでホッとしたぜ。昨日と同じおれのままでよかった、って」
「万 が一 誰かに襲われて、昨日と同じ状態じゃいられなさそうでも、オメーなら素手で敵を殲滅 できンだろ。オレなんか特に。イヤならブッ殺せばいいだろ」
二人の間に、長くも短くもない沈黙が流れた。
その沈黙が通り過ぎた後 、キャピタルの声が地を這 うような重低音に一変 した。
「今テメーがおれに放ったセリフは『イヤなら言ってくれればよかったのに』といっしょだ」
ソロは性的な単語にばかり蛍光ペンで印 がついているキャピタルの国語辞典で、脳天をカチ割られたような衝撃を受けた。
『イヤなら言ってくれればよかったのに』は自分が全く悪いと思っていない者どもの『言わない方が悪い』という責任転嫁が凝縮された決まり文句である。
ソロは二度の退学を経て今の学校へ通うこととなったのだが、前の学校で問題を起こすと、相手側から『嫌なら言ってくれれば良かったのに』と笑いながら言われたことを思い出した。
「アレは都合が悪くなると相手のせいにするヒキョウモノのセリフだ。いくら、おれが強 ぇからって『イヤならブッ殺せばいいだろ』なんておかしいだろ」
まさか、キャピタルに『ヒキョウモノと同じ考え方だ』と糾弾 されるなんて。
だが、返す言葉が無い。
自分がやられて嫌だったことを、キャピタルにしてしまったなんて。
ソロは激しく動揺した。
「ゆ、許せ、ぱぴたん」
「ばかっ、まだ許さんッ。おれに『イヤならブッ殺せばいいだろ』なんて言いやがって。いじめっコが被害者に被害者ヅラすんな、って言って傷付けてンのといっしょだ」
日常生活の些細なことから捕食者の討伐に至るまで、ほぼ武力で挑むこの生き物に『力』ではなく『理』で攻め込まれてしまうなんて。
「怖くて抵抗できなかったかもしれないのに、そんなものがまかりとおったら、ブッ殺さなかったおれが悪いみたいじゃねーか。ホントはイヤなのに、ブッ殺さなかったら合意なのか。おかしいだろ。違うだろ。おれの強さに全責任を押し付けるんじゃねー」
ソロはキャピタルの語彙力に圧倒されていた。
キャピタルの主張は、ソロがすんなり受け入れられる倫理に昇華されていた。
「オレが悪かった、ぱぴたん」
いったい、誰がこの強者 を自意識過剰 と責められよう。
「アイツらと同じはヤだ。オレはイジメっこじゃない。ぱぴたんから、そんな奴だと思われたくない。許して欲しい」
少なくとも、ソロはできない。
「すまなかった。ぱぴたん」
ケンカを売られるたびに『家族がいないからって、いつまでも被害者ヅラするな』『税金泥棒』と、何度言われたことか。
「傷付けて、すまなかった」
あんな傷口に塩を塗るような真似を、自分がキャピタルにしてしまうなんて。
「わかりゃあ、いいんだよ」
生爪が剥がれた傷口に、物が押し付けられるような
「泣くな」
いつまでも治らない火傷のような
「おれは泣いていいなんて言えない」
「泣いてない」
涙を拭ったら、泣いていることを認めてしまうのでソロはゴーグルを外せなかった。
「話が
ソロは瞬時に冷静になった。
コレは納得がいかない。
「なぜそこに答えが至 った」
「おれをカワイイだのなんだのと褒 めちぎり、お前の本音がかいまみえたしゅんかんを見るにつけ、スマナイとは思ってたんだよ。でもダメだ、友達としか見れない。男はナイ。全 ナイ。浮島の木にすら劣情 をおぼえるような変態はとくにダメだ」
「オレの感性にケチつけんな。木に劣情 を覚えて何が悪い。お前だってアクリルスタンドの彼女がいるだろがッ」と、噛 みつきそうになったが、話が余計こじれそうなのでやめた。
「おれが相撲に勝利したあと、あまりにもカッコよすぎて直視 することができず、恥 じらいのあまり人知れず去った気持ちもワカル。でも生理的にムリ。ムリムリのムリだ。あきらめろ」
厳しい美少女修行中に、似たような感覚を抱 いたことがあるような、ないような。
「だが、おれは懐 がふかい」
「自分で言うか」
「すべて無かったことにして、あらためてお友達をケイゾクしてやる」
「やだ。友達じゃなくていい」
「あきらめろ。友達で満足しろ」
「そういう意味のヤダじゃなくて」
「このごにおよんでゴネるな。お前は友達いじょうにはなれない」
「なんでオレがテメーにフラれたみてーになってんだ」
「説教はこれで最後だ。浮島のじょおう様はおれだけに紹介しろ。パパにはもったいない。兄ちゃんにも言うな。言いたいことはそれだけだ。オレは今まで休んだ分と遅刻した分がロスタイムとして授業時間に加算されているから、いそがしい。もう学校へ行くが、じょおう様の件 だけはくれぐれもなんとかしろ」
言うだけ言ってスッキリしたのか、キャピタルは行ってしまった。
「おれに台詞 を吐 いて。
「オレの話聞けし」
そもそも『
「あれは恐怖のあまり『姉ちゃんはまだ帰って来ないから、変なこと考えないでください』って、お前をけん
あの性的な単語にばかり蛍光ペンで
「お前が外へ出て行ったとき、おれはマジでホッとしたぜ。昨日と同じおれのままでよかった、って」
「
二人の間に、長くも短くもない沈黙が流れた。
その沈黙が通り過ぎた
「今テメーがおれに放ったセリフは『イヤなら言ってくれればよかったのに』といっしょだ」
ソロは性的な単語にばかり蛍光ペンで
『イヤなら言ってくれればよかったのに』は自分が全く悪いと思っていない者どもの『言わない方が悪い』という責任転嫁が凝縮された決まり文句である。
ソロは二度の退学を経て今の学校へ通うこととなったのだが、前の学校で問題を起こすと、相手側から『嫌なら言ってくれれば良かったのに』と笑いながら言われたことを思い出した。
「アレは都合が悪くなると相手のせいにするヒキョウモノのセリフだ。いくら、おれが
まさか、キャピタルに『ヒキョウモノと同じ考え方だ』と
だが、返す言葉が無い。
自分がやられて嫌だったことを、キャピタルにしてしまったなんて。
ソロは激しく動揺した。
「ゆ、許せ、ぱぴたん」
「ばかっ、まだ許さんッ。おれに『イヤならブッ殺せばいいだろ』なんて言いやがって。いじめっコが被害者に被害者ヅラすんな、って言って傷付けてンのといっしょだ」
日常生活の些細なことから捕食者の討伐に至るまで、ほぼ武力で挑むこの生き物に『力』ではなく『理』で攻め込まれてしまうなんて。
「怖くて抵抗できなかったかもしれないのに、そんなものがまかりとおったら、ブッ殺さなかったおれが悪いみたいじゃねーか。ホントはイヤなのに、ブッ殺さなかったら合意なのか。おかしいだろ。違うだろ。おれの強さに全責任を押し付けるんじゃねー」
ソロはキャピタルの語彙力に圧倒されていた。
キャピタルの主張は、ソロがすんなり受け入れられる倫理に昇華されていた。
「オレが悪かった、ぱぴたん」
いったい、誰がこの
「アイツらと同じはヤだ。オレはイジメっこじゃない。ぱぴたんから、そんな奴だと思われたくない。許して欲しい」
少なくとも、ソロはできない。
「すまなかった。ぱぴたん」
ケンカを売られるたびに『家族がいないからって、いつまでも被害者ヅラするな』『税金泥棒』と、何度言われたことか。
「傷付けて、すまなかった」
あんな傷口に塩を塗るような真似を、自分がキャピタルにしてしまうなんて。
「わかりゃあ、いいんだよ」
生爪が剥がれた傷口に、物が押し付けられるような
「泣くな」
いつまでも治らない火傷のような
「おれは泣いていいなんて言えない」
「泣いてない」
涙を拭ったら、泣いていることを認めてしまうのでソロはゴーグルを外せなかった。
「話が
だっせん
した。さっきの続きにもどるぞ。病院まで追いかけてきて、パパに『好きな男子と仲が悪くなっちゃった』なんて相談して。どー考えたって相手はおれしかいないだろ」ソロは瞬時に冷静になった。
コレは納得がいかない。
「なぜそこに答えが
「おれをカワイイだのなんだのと
「オレの感性にケチつけんな。木に
「おれが相撲に勝利したあと、あまりにもカッコよすぎて
厳しい美少女修行中に、似たような感覚を
「だが、おれは
「自分で言うか」
「すべて無かったことにして、あらためてお友達をケイゾクしてやる」
「やだ。友達じゃなくていい」
「あきらめろ。友達で満足しろ」
「そういう意味のヤダじゃなくて」
「このごにおよんでゴネるな。お前は友達いじょうにはなれない」
「なんでオレがテメーにフラれたみてーになってんだ」
「説教はこれで最後だ。浮島のじょおう様はおれだけに紹介しろ。パパにはもったいない。兄ちゃんにも言うな。言いたいことはそれだけだ。オレは今まで休んだ分と遅刻した分がロスタイムとして授業時間に加算されているから、いそがしい。もう学校へ行くが、じょおう様の
言うだけ言ってスッキリしたのか、キャピタルは行ってしまった。
「おれに
けそう
しやがって・・・・・・。どうしようもない生き物め」と、捨て