第11話

文字数 1,052文字

「もう会わない方がいいと思ってた」
 シキはそう言ってから、言葉を続けた。
「重いし」
 丈郎は「おれもそう思ってた」と心の内で呟く。
 夜のコンビニの外だった。
 あの日から、丈郎はシキと出会いそうな場所と時間を避けていた。神社の境内を通るのは平日の昼間にした。夕方以降の駅周辺にも行かないようにしていた。
 それなのに、ふと思い立って出かけたコンビニから、シキが出てきた。
 シキは丈郎に気付くと微かに苦笑した。また出会ってしまった、という様な表情を見た時、会いたかったという気持ちは自然に湧き上がり、抑えられなかった。
「打ち明けたことを後悔してるのか」
 丈郎は尋ねた。シキは少し首を傾げて考えていた。
「後悔とは少し違う。重いとわかってるものを、慎重に考えてから決断したんじゃなく、成り行きみたいな感じに見せたのは、間違いだったと思った」
 短慮だったと言いたいようだと丈郎は解釈する。
 間違いだったと思ってほしくない。だがシキにどう言えば、間違いではなかったと納得してもらえるのか、わからなかった。丈郎は自分の思いを話すことにした。
「おれは<重い>と思ってない。その傷は重いだろうと想像するけど、想像がつかないとも言える。似たような目に遭ったことがないし、人生経験も足りない。だから何の力にもなれない。……聞くとか、家に泊めるとかしか、できない」
 シキはしばらく何も言わなかった。それからふと微笑んだ。
「安住は、すごいな」
「何がだ」
「おれには、それができない。朋――」
「とも?」
「式原朋彦。駅にいた、叔父。もうずっと会ってない。逃げ回って、逃げ続けて、こんな所にまで来てる。そしてここまで来た叔父から、また逃げた」
 丈郎は駅で呼び止められたシキの叔父を思い起こす。切羽詰まった表情と真剣な口調。彼の来訪とシキが親に刺されたことが無関係のはずがない。
 丈郎はシキの背中を思い起こす。古傷ではなくまだ生々しかった。
「『準備ができてることなんてないんだ』。この間、そう言ってたよな。……そういうことじゃないのか。叔父さんと対面して話す心の準備が、まだできてない。だから逃げる。あの人も『住んでる所を見に来ただけで会うつもりはなかった』と言っていたから、向こうもそれは予想してたんじゃないか。会える段階じゃない、と」
 シキは黙り込む。丈郎は夜の街路を眺めた。県道に面した店舗だが車の通行は少なく、人も歩いていない。衰退する地方の町でひっそり生活していても、逃れられないものもある。
「安住」
「何だ」
「――そうかもしれないな」

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