第4話②

文字数 726文字

 丈郎とは別の高校へ進学した優以は、例の事件について詳しく知らない。事件後は、他人が後から言い立てることは耳に入れまいとした。
 発端は丈郎に届いていた手紙だというのは、複数の知人から聞いた。
 何が書かれていたのか丈郎は誰にも話さなかったそうだが、ろくでもない内容だったに違いない。月曜日の放課後、丈郎は校門前で待っていた少女に封筒を突き返した。受け取りを拒まれると、彼女の目の前で破ってその場に捨てたという。
 彼女はD高の寮生だと聞いた。D高は歴史は古いがぱっとしない仏教系の私立校だ。有名な部活があって全国から生徒が集まるような学校ではないのに、遠方から入学する生徒のために寮がある。
 丈郎に拒否された後も彼女は校門前で待ち伏せていた。あきらめなかった。学校側からD高へ連絡が行き、学校には現れなくなったが、彼女の待ち伏せ場所が丈郎の自宅近くの神社に変わっただけだった。そして十二月下旬、神社で首吊り自殺した。
 丈郎は悪くない。優以はそう思う。頭ではそう思っている。頭のおかしいストーカー女があてつけがましく自殺したからといって、丈郎が責められる()われはない。ある意味被害者だ。
 それを丈郎に伝えたことはない。優以は丈郎に連絡を取る前に、丈郎と同じ高校にいる幼なじみ達に様子を尋ねた。
「何もなかったみたいに、普通」
「正直、どん引く」
「何か、近寄りがたい」
 丈郎の様子を直接見た訳でもないのに、優以は彼等に同調した。もう少ししてから、いつもそう思ってスマホから手を離した。優以が勝手に設けた猶予期間を、いつの間にか丈郎は却下していた。丈郎がケータイを解約したと聞いてから数日後、優以は幼なじみに丈郎のことを尋ねた。
「最近来てない」
 その一行だけだった。


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