第4話

文字数 586文字

 日曜日は朝から青空が広がった。日射しは強く、風は熱をはらんでいた。夏が近づいている。
 丈郎は家で鬱々(うつうつ)としていた。
 シキのことが頭から離れなかった。
 もう会うことはないと繰り返し思うが、思い出す。神社の軒下に暗い眼をして座っていた、あの雨の日。潔さや芯の強さを感じさせる言動や、素直に「ありがとう」と口にするところに、良い印象を持っていた。
 だがそれらも、駅で手を振り払われたあの場面で行き止まる。
 シキが転んだから、呼び掛ける名前が出てこなかったから、肩にふれた。
 それだけだった。それ以外の何も入り込んでいない。
 ふれた感覚より、はじかれた痛みの方が手に残っている。
 拒絶されたと確信できないから、何度も同じ場面を思い返す。不意打ちだった為、抗議も理由を尋ねることも意識に上らず、衝動的に去ってしまった。戸惑っているように見えたシキの表情。駅舎で立ちつくしていた姿。丈郎に触られた嫌悪や怒りは見当たらなかったが、もう会うことはないのに変わりはない。
 最後に会った時に少々気まずいことがあった――時が経てばそれも薄れて消えるだろう。
 会わなければ、離れてしまえば、互いに遠ざかって過去の存在になる。
 この町でそうやって生きているのだから、今までと同じだ。
 シキとのことも、今までの続きに落とし込み、再会も別れも、取り出して思い返すことのない記憶の頁に挟んでしまえばいい。
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