7. あれから

文字数 1,315文字

 ラキアは授与式(じゅよしき)の三日後に、両親と共に帰郷(ききょう)した。

 そして、「陛下の結婚式でまた会おう。」と、アベルとリマールの二人に言い残したレイサーは、意外なことに、実家のカルヴァン城へひとまず帰るという。

 リマールが、そのまま王室の専属薬剤師として王都で暮らし始める一方、アベルは王宮にいて護衛を(ともな)いながらも、本人の希望で王族とは違う普通の生活をし、ルファイアス騎士やエドリック隊長から戦い方を学ぶなどして有意義(ゆういぎ)に過ごした。

 そして、さらに一か月後、婚礼(こんれい)()を予定通りに()り行うことができた。
 純白(じゅんぱく)のウェディングドレスに身を包んだアリシア姫の美しさと輝かしさには、参列客(さんれつきゃく)たちはみな(ほう)けたように目を(うば)われたものだった。

 神聖で(おごそ)かな聖堂(せいどう)での挙式(きょしき)のあと、勲章(くんしょう)授与式(じゅよしき)の日にも使われた王宮の大広間にて、盛大(せいだい)祝宴(しゅくえん)も開かれた。

 レイサーは、兄のルファイアスやラルティスと同じベレスフォード家の席へ。そこへ特別にリマールの席も用意してもらった。

 ところで、叔父(おじ)であるベルニア国の統治者(とうちしゃ)ムバラートは、白々(しらじら)しい祝辞(しゅくじ)の手紙を寄越(よこ)してきただけで、式にも祝宴にも出席しなかった。

 これは、誰もが予想していたことだ。彼は、自分がウィンダー王国の多くの者から嫌われていることを知っている。この国の権力者の誰とも気が合わないと感じている。いつかはウィンダー王国の全てを手中に収めてやろうと、野心(やしん)に燃えている。近い将来、侵略戦争(しんりゃくせんそう)に踏み切ってもおかしくないような男。()れ合う気になどなれないのだろう。

 そして翌日、レイサーは放浪(ほうろう)の旅に出ると言って、アベルとリマールに別れを告げた。

 月日は流れ、アレンディルは、順調に健康な体を取り戻していった。 
 その王の治療に大いに貢献(こうけん)しつつ、医学の勉強に(はげ)むリマール。
 かたや、アベルは剣の稽古(けいこ)に。 

 そんなある日、王宮に歓声(かんせい)がとどろいた。

 アリシア王妃が、周囲の期待に見事に(こた)えたのである。そう、早くに妊娠(にんしん)することができたのだ。つまり、次期王を身籠(みごも)ったということ。

 こうして、王アレンディルの病態も良い状態で安定し、アリシア王妃も妊娠したことを機に、アベルは何の迷いもなくイルマ山へと帰郷(ききょう)した。

 その帰り道。レイサーの住処(すみか)へ寄ることにしたアベル。

 しかし残念ながら、レイサーは留守(るす)のようで、周辺(しゅうへん)を探しにいってみたが見つからなかった。また放浪中かもしれない。

 彼の住処へと戻ってきたアベルは、中途半端(ちゅうとはんぱ)なツリーハウスを見上げてそっと微笑み、「ありがとう。」と一人つぶやくと、名残惜(なごりお)しく思いながら立ち去った。


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登場人物紹介

アベル(アベルディン)。15歳の主人公。難病の治療のため、1歳の時にイルマ山に住む賢者のもとに預けられたウィンダー王国の王子。神秘の山で育ったため、風の声が聞けるという特殊能力を持つ。弓の名手。

リマール。イルマ山に住む賢者(名医)のもとで勉強している見習いの薬剤師。そのおかげで、とある難病の薬を作ることができる数少ない薬剤師のうちの一人。薬草に詳しい17歳。

レイサー。王族とも親しいベレスフォード家の末っ子。4人の男兄弟の中で、一人だけ騎士の叙任を辞退した屈強のさすらい戦士。そのため、実家のカルヴァン城を出て、イルマ山の麓にある(中途半端な)ツリーハウスを住居としている。

ラキア。ローウェン村の見習い精霊使い。5歳児と変わらない言動ばかりする13歳の少女。

アレンディル。アベルの兄。希少な薬でしか治す可能性がないと言われる難病にかかり、余命一年と宣告された若き王。

ルファイアス。ベレスフォード家の長男。先代王ラトゥータスと、現国王アレンディルの近衛兵。英雄騎士。

ラルティス。ベレスフォード家の次男。南の国境警備隊の総司令官。

エドリック。ベレスフォード家の三男。正規軍の隊長。

アヴェレーゼ。ベレスフォード家の長女。王の近衛兵の一人と結婚した若奥様。

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