3.  嵐のあと

文字数 1,365文字

 疲れが溜まっている体で、薄暗い洞窟(どうくつ)にいた二人が目覚めたのは、もう昼も近いと思われる頃だった。

 アベルの方は明け方から何度か目を覚ましたが、起き上がることができず、また眠るということを繰り返していた。同時に(のど)(かわ)きが気になったものの、水筒は少し離れたところに置いてあり、取りに行く気力が湧かなかった。

 リマールがやっと目覚めた時になって、理由が分かった。
 アベルは熱を出していたのである。

 リマールは、症状に合う薬を荷物の中から取り出した。
「薬も少しは持って来ていて良かった。」 

 アベルは薬と一緒に水を飲ませてもらい、やっと喉が(うるお)った。

 昨夜の暗い中で、この洞窟は立ち上がることができるくらいの高さだということ、そして入口の辺りに大きな岩が突き出していることだけは分かっていた。外から光が射しこんでいる今よく見回してみると、思ったよりも広くてずっと深い。奥へ向かって道のようなものが伸びている。大きな岩は所々にあり、少し(こけ)むした灰色の岩肌に(おお)われた中は、ちょっとひんやりしている。だが幸い天気は回復し、文句(もんく)無しの晴天とまではいかないものの、空は陽の光を感じられるほどには晴れていた。

 二人は陽射しを浴びたいと思い、アベルも少し無理をして洞窟の外へ出た。そこでリマールは軽く朝食をとったが、アベルは全く食欲がなく、一口も喉を通る気がしなかった。

「この奥、あとでちょっと調べてくるよ。」
 リマールが洞穴(ほらあな)の奥を振り返って言った。

 やがて食べ終わったリマールは、着替えて一人奥へと踏み込んで行った。

 ハーフケットにくるまったままのアベルは、大きな岩の陰にまた横になった。

 洞窟に響く、リマールの足音が聞こえる。それは次第(しだい)に小さくなっていき、消えた。

 どこまで続いているんだろう・・・大丈夫かな。そんなに離れないでほしいけど・・・。

 そう思っているうちにまた同じ足音がして、しばらくして戻ってきたリマールは、胸の前に枯葉(かれは)の付いた枝(太いものや細いもの、いろいろ混ざっていた)を10本くらい(かか)えていた。

「ほら、見て。前にも誰か来たんだ、これ使えるよ。」

 リマールは、抱えていたものを地面に置いた。そして自分のハーフケットを持ってくると、寒気がしているに違いないアベルに重ねてあげながら、言葉を続けた。

「それに、分かれ道がいくつもあった。そこへ隠れられるし、もう一日ここに居よう。何か燃やせそうなもの、もっと探してくる。」

 アベルは行かないで欲しかった・・・けど、かすれた声しか出せなかった。

 リマールは、アベルが何か言いたそうにしていたことにも気づかず、行ってしまった。

 アベルは一人になった。

 なぜか言いようのない寂しさに襲われた。

 眠ろう・・・。目が覚めたら、リマールはきっとそこにいる。明日、先へ進むために、病気を治さなくちゃいけない。眠ろう・・・。

 アベルはじっと目を閉じた。眠ることだけを考えようとした。

 ところが・・・上手くいかない・・・寝すぎてしまったせいかな。

 アベルはため息をついて、小さな毛布をぎゅっと掻き寄せた。

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登場人物紹介

アベル(アベルディン)。15歳の主人公。難病の治療のため、1歳の時にイルマ山に住む賢者のもとに預けられたウィンダー王国の王子。神秘の山で育ったため、風の声が聞けるという特殊能力を持つ。弓の名手。

リマール。イルマ山に住む賢者(名医)のもとで勉強している見習いの薬剤師。そのおかげで、とある難病の薬を作ることができる数少ない薬剤師のうちの一人。薬草に詳しい17歳。

レイサー。王族とも親しいベレスフォード家の末っ子。4人の男兄弟の中で、一人だけ騎士の叙任を辞退した屈強のさすらい戦士。そのため、実家のカルヴァン城を出て、イルマ山の麓にある(中途半端な)ツリーハウスを住居としている。

ラキア。ローウェン村の見習い精霊使い。5歳児と変わらない言動ばかりする13歳の少女。

アレンディル。アベルの兄。希少な薬でしか治す可能性がないと言われる難病にかかり、余命一年と宣告された若き王。

ルファイアス。ベレスフォード家の長男。先代王ラトゥータスと、現国王アレンディルの近衛兵。英雄騎士。

ラルティス。ベレスフォード家の次男。南の国境警備隊の総司令官。

エドリック。ベレスフォード家の三男。正規軍の隊長。

アヴェレーゼ。ベレスフォード家の長女。王の近衛兵の一人と結婚した若奥様。

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