関口 陽(ひなた) (5)

文字数 1,451文字

「あ……え……えっと……」
 準備は整ってるとは言い難いが……中で怪我人が続出してるのは確実なので、あわてて、各棟に突入したら、早速、傷だらけで体力を消耗した囚人を発見。
 外で、散々、「手間さえかければ除霊して元に戻す事が出来るゾンビもどき」を虐殺しといて、今更、何だと言う気もするが……それが可能な状況になった以上は助けられる人間を助けなかったら、私ら「自警団」は単なる犯罪組織と違いは無い。
「こ……殺さないで……俺……もう……マトモ……」
「おい、ラン……どこに行く?」
「予想して然るべきだった。医薬品を取って来る」
「多分……無い」
「何で無い? ここまでの規模の作戦なら、医療チームも居るだろ。どこに連絡すれば、医薬品をもらえ……ん?」
 ランは笹原(ささのはら)の方を見る。
 私の方は、強化装甲服(パワードスーツ)で顔が隠れてるが……そうじゃない笹原(ささのはら)の表情を見て、何かに気付いたようだ。
「えっと……まさか、ここの『自警団』って医療チーム無いの?」
「ないよ。NEO TOKYOUの十いくつの『自警団』の中で、その手の専門チームが有ったのは『2位に大差を付けた最大手』だった『英霊顕彰会』ぐらいだ」
 そう答えたのは……いや、何で、この2人が私達と一緒に居るんだ?
 この「御徒町刑務所」には全部で十つの棟が有る。
 入口近くに面会などに使われる部外者も立ち入り可能な第0棟。
 その奥に管理棟と、それを囲むように配置された第1棟から第8棟まで。
 管理棟と第1〜第8棟の間は囚人の運動などに使われる中庭になっている。
 更にその奥が物資搬入用の「港」で……場合によっては、素行が良い囚人が社会復帰訓練も兼ねてコンテナ・クレーンの操作方法などの港湾での作業を学ぶ場合が有るらしい。
 そして、私と同じ第1棟の掃討に駆り出されたのは……。
 まず、私。
 続いてラン。
 更に、私達2人の「御目付け役」の笹原(ささのはら)
 そして……とんでもない連中まで御一緒だ。
 さっき、ランの質問に答えたのは、今日の「決闘」の見物に、わざわざ広島沖のSite02こと「渋谷・新宿区」から来た、「新宿」の「自警団」である「四谷百人組」の藤井詩織。四谷百人組の4つのチームの1つのサブ・リーダーらしい。
 更に時代劇の侍のコスプレをした「四谷百人組」の連中が5人。
 それと……同じく「渋谷・新宿区」から来た「渋谷」の「自警団」である「原宿Heads」のMC富三郎。こっちは十ぐらい有る「原宿Heads」内のチームの1つのリーダーだ。
 そして、同じく「ラップの事を良く知らないヤツが想像するラッパー」そのまんまな格好の奴らが5人。
「おい、全員、安全そうな場所が無いか探せ。とりあえず、怪我人はそこに集めるぞ」
 気怠い感じながら的確な指示を出すMC富三郎。
 その指示に従い、あっちこっちに走り出す「原宿Heads」のメンバー(Heads)達。
「何やってんだ? お前らも行け」
 続いて、藤井詩織が侍コスプレの連中に指示を出した途端……。
「た……助けてくれ〜ッ‼」
 Bボーイの1人が絶叫をあげながら戻って来る。
「やれやれ……」
 そう言いながら、ランは背中からバタフライ・ナイフを巨大化したような刃物を抜く。
 そいつは、一見、ゾンビもどきに追われているように()()()
「待て」
 私はランに声をかける。
「えっ?」
「あの男……もう正常みたいだぞ……」
「『あの男』って、追われてる方じゃなくて……追ってるゾンビもどきの事か?」
「そう……。余程、気配を隠すのが巧い『悪霊』に取り憑かれてんじゃなけりゃ……正気に戻ってる筈だ」
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