関口 陽(ひなた) (12)

文字数 1,098文字

 私は「護法童子」と呼ばれる使役霊を呼び出した。
 「魔法」の事を良く知らない相手に説明する時は、面倒なんで「式神」なんて陰陽道風の呼び方や「使い魔」って云う西洋魔術風の言い方をする事も有るし……最近は、日本の流派の人間でも、この手のモノを「使い魔」って呼んだり、陰陽道系以外の流派の奴でも「式神」って言ったりする事が多くなっている。
 西洋魔術系の奴に「人造精霊」って言われた事が有るが……そもそも、こいつは私が作り出した存在なのか、元から居たモノを私が支配した存在なのかは……ややこしい事に「どっちとも言える」としか言えない。少なくとも、「魔法」の修行をした事が無い相手には、そう説明するのが一番簡単に思える。
 ともかく、私は、自分の肉体の感覚を遮断し、護法童子の感覚のみで、周囲を認識する。
 そこに有るのは……今まで認識していたのと、同じ筈なのに全く違う世界。
 視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚で認識していた世界と丸で違う、気配・気・魔力・霊力で認識する世界だ。
 邪気・妖気・瘴気……何と呼んでも良いが、「邪悪」な「気」……通常は人間の心身に悪影響を及ぼす「気」も認識出来る。
 それも……さっきより、「邪悪」な「気」の種類をより正確に識別出来る。
 この刑務所の上空に有る「門」から流れ出している邪気。
 そして、少し離れた場所の「地下」に開いた「門」から流れ出している邪気。
 どっちも邪気には違いないが、その違いが判る。
 そして、それらの邪気に影響されて活性化したらしい他の様々な邪気……待て……。
 デカい2つに比べれば注意してないと気付くのが難しいが、もう1つ……邪気の流れが……。
 やっぱりそうか……。
 私は自分の肉体が目を開く様子を心の中に強く思い描く。
 単なる想像じゃなくて……自分自身で見えていると錯覚してしまうほどのリアルで詳細なイメージを心の中に生み出す。
 それが、護法童子の感覚から自分の感覚へ「感覚の切り替え」を行なう為の……何と言うか……一番近いモノだと……そうだ、自己暗示だ。
「予想通りだ……」
 ランや笹原(ささのはら)達が居る世界に戻った私は、そう言った。
「上空のデカい『門』の気配に隠れてたけど……もう1つ小さい『門』が、ん? えっ?」
「な……?」
「お……おい……何が……」
 だが、説明の途中で予想外の事が起きた。
 霊的な現象じゃない。
 魔法でもない。
 その他の超常現象でもない。
 多分だが……純粋な物理現象だ。
 だが、何故、起きたのかは判らない。
 どう云う訳か……どこからともかくとんでもない轟音が轟いた。
 多分……それが起きたのは近くだ……。
 なぜなら……床からも振動が伝わって来た。
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