高木 瀾(らん) (4)

文字数 1,151文字

「待て」
「えっ?」
「あの男……もう正常みたいだぞ……」
 オレンジ色の服を着たゾンビもどきに追われているBボーイを助ける為に駆け出そうとした直前、関口が私に声をかける。
「『あの男』って、追われてる方じゃなくて……追ってるゾンビもどきの事か?」
「そう……。余程、気配を隠すのが巧い『悪霊』に取り憑かれてんじゃなけりゃ……正気に戻ってる筈だ」
 何か理由が有って、ゾンビもどきのフリをしているらしいが……その「理由」は何だ?
「判った」
「えっ?」
 今回、「えっ?」と言ったのは関口だった。
 私は駆け出し……そして……。
「伏せろッ‼」
「うわああああッ‼」
「うわああああッ‼」
 私が叫んだ直後、男の悲鳴が2つ。
 私は手にしていた大型バタフライ・ナイフを展開。
 周囲の人間には、強化プラスチックの棒か何か中から、突如、刃が飛び出てきたように見えただろう。
 逃げていた「原宿Heads」の構成員は私の指示通り、しゃがみ込み……。
 その頭上を刃が通過。
 刃はギリギリでゾンビもどき……もしくは、そのフリをしている受刑者の顔に命中()()()()()
 その受刑者の顔に浮かんだ表情は……ゾンビもどきではなく、感情と知性を持つ人間のものだった。
「な……なにしてやがるッ‼」
 周囲から一斉に絶叫。
「あんたこそ、何してた?」
 私はゾンビもどきのフリをしていた囚人に、そう訊いた。
「殺す気かッ⁉」
「わざと刃が届かない位置から攻撃した。命中しないのが確実なのを『攻撃』と呼べればだが」
「正気に戻すにしても、手荒過ぎるだろ」
 「四谷百人組」の女性が、声を荒げる。
「いや、この人物は最初から正気のようだ。ゾンビもどきのフリをしていた理由は不明だが」
「え……えっと……」
 ゾンビもどきのフリをしていた受刑者は……腰を抜かして座り込み……そして……。
「うわっ‼ 汚ねえぞ、ボケッ‼」
 さっきまで、ゾンビもどきのフリをしていた受刑者に追われていたBボーイの怒号。
「だ……だってよう……って、あんたら、そもそも誰だ?」
「貴方達を救助に来た。まずは、質問に答えてくれ。質問は3つだ」
「ええっと……」
「1つ目。何故、ゾンビもどきのフリをしていた?」
「い……いや……えっと……意識を取り戻したら……看守が、あんたの言う『ゾンビもどき』になって、囚人や他の看守を襲ってて」
「それで?」
「何とか逃げ出したら、マトモな奴と『ゾンビもどき』が入り混じってる状態だったんで……」
「だから?」
「『ゾンビもどき』のフリをしてたら、『ゾンビもどき』に襲われないかと思って……」
 ……。
 …………。
 ……………………。
「すまん、私には『魔法』関係の知識がそれほど無いので判らないのだが……」
 私は関口に問い掛けた。
「なんだ?」
「この人物がやった行為は、類感呪術とやらの一種か?」
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