関口 陽(ひなた) (9)

文字数 794文字

 私達の周囲では、悪霊や魑魅魍魎どもが大喧嘩を始めていた。
 「寛永寺僧伽」の2人に取り憑いた悪霊は、人間の目や耳を通して、私達の存在を認識出来てはいる。
 そして、私達の存在を、仲間の悪霊に教えている……らしい。
 だが、肝心のその他の悪霊どもは「隠形」の術のせいで、私達を認識出来ない。
 認識出来ない私達を何とか攻撃しようとした結果……別の悪霊や魑魅魍魎を攻撃してしまい……更に攻撃されたヤツは反撃し……悪霊同士の小競り合いがどんどん拡大していっている。
「なぁ、こいつら無視してても、私達に害は無いのか?」
 その時、ランは寛永寺僧伽のヤツらの片方を殴り付けた後、私にそう訊いてきた。
 普通なら気絶してる所だろうが……悪霊が取り憑いてるので体は動かせる。
「害って?」
「怪我してる上に麻痺してる体を無理矢理動かそうとしてるから、動きがにぶい。放っておいても大丈夫な気がするが……それで問題無いか、確認してるんだ」
「あ……ああ、大丈夫だと思う」
 私からすれば「何呑気な事言ってんだ」って感じだが、こいつは霊感がほぼ0みたいなんで、周囲(まわり)でどんどん拡大してる騒動に気付いてない。
「まあ、いい。とっととケリを付けるぞ」
 そう言って、ランは腰の背面に背負っている革のケースから小型の弓と、麻酔薬付の矢を取り出した。
「お……おい、待て……」
「何だ?」
 ランがそう言ったのは、矢を放った後だった。
「あ……あのな……私達はプランBだっただろ」
「まぁ、そうだが……」
「あのさ……私達を恨んでる奴の面子をこれ以上潰したら……」
 ドテン。
 何者かが倒れる音。
「まずかったかな?」
「……と思うが、もう遅い……」
 対象(ターゲット)は、あっさりと、麻酔薬で眠っていた。
「あのさ……お前は『本土』の人間だからいいだろうけど……私は、この(東京)に住んでて……しかも、奴らに身元がバレてんだぞ」
 私の声は……自分でも意外な事に、妙に冷静だった。
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