第34話 危ない物
文字数 1,615文字
「父上は最近、何だか預言者めいてきましたね」
華仙 は苦笑する。熊 の国との一件。そして、陽 の国とのこと。威候 が口にすると、ほぼその通りとなってきたような気がする。
「やはり、陽の国は城門を開けようとしているのでしょうか」
華仙は以前、玄 が口にしていたことを言った。
「どのように、ということは分からぬが、そうであろうな。我らとは違って大きな戦に慣れている国だ。自国の被害を最小限に抑えようとするであろう」
そういうものなのかと華仙は思う。考え込んだ様子の華仙に威侯が言葉をかけた。
「家に一度、華仙は戻れ。冬香 に顔を見せてやってくれないか。あれが心配しているのだ」
「母上が」
急に話が変わった上に母親の名を持ち出されて渋い顔をしている華仙に向かって、威侯も同じように渋い顔を返した。
「華仙、そのような顔をするな。母親として娘の心配をするのは当然だ」
「それは分かりますが、母上と会いますとお説教が始まりますゆえ」
華仙の頬が膨らみ始める。
「お説教ではないぞ。娘を心配しての言葉だ」
威侯は苦い顔をするが、声は小さくなる。それを世の中ではお説教と言うのではないかと華仙は思う。
「そもそも、父上が母上を甘やかすからです。私に武芸を幼い頃から学ばせて、戦場も含めて私を連れ回しているのは父上ではないですか」
「それは将軍家の娘としてだな」
「ならば、母上にもしっかりと父上からそう言って下さい。女だてらに剣を持つなんてなどなど、いつも小言を言われるのは私なのです」
「いや、それは娘を心配してだな」
「それは先程、聞きました」
華仙が、ぴしゃりと言うと、威侯は黙りこんでしまう。どうも父親の威侯は母親の冬香に甘い。甘いというか、弱いのだと華仙は思っている。
「余り怒るな。お前が怒ると冬香に似てきて、何も言えなくなってくるのだ」
威侯が小声でぼそりと言う。母親の冬香のことになると、威侯はいつもこのようになってしまう。
全く、いつもの無駄に馬鹿でかい声はどこにいったのだと華仙は思う。
「分かりました。ここは父上の顔を立てましょう。今日は家に戻るとします」
溜息を吐き出しながら華仙が言うと、威侯はそれまでと変わって嬉しそうな顔をするのだった。
「母上、ただ今、戻りました」
家に戻ってきた華仙の姿を見ると、母親の冬香は安堵した表情を浮かべた。
「心配したのよ、華仙。父上は何もおっしゃってくれなくて、自分と黄帯 が近くにいるから大丈夫との一点張りで。それだけでは何が大丈夫なのか、母には一向に分かりません」
冬香はそう言いながら頬を膨らませる。我が母親ながら、相変わらず振る舞いが少女のようだと思いながら華仙は口を開いた。
「母上、ご心配をかけて申し訳がありません。私は玄様のお傍でお守りしているだけですので、戦場に出るようなことはありません。ですので、安全なのです」
冬香に余計な心配を与える必要はないので、これぐらいの嘘はいいだろうと華仙は思う。口が裂けても今日、敵陣へ斬り込みをかけたなどとは言えない。そんなことを言えば、今からでも家に軟禁されてしまうかもしれない。
「そうは言っても、戦場にいることは変わらないでしょう? 急に矢とかの危ない物が飛んでくるかもしれない。急に飛んできたら、父上たちだって防げない時があるかもしれないのよ」
危ない物……。
まあ、危ない物には違いないのだけれども、と華仙も思う。
「母上、私の近くには常に父上も黄帯もおります。ですので、無用な心配かと」
「無用な心配? あら、母親が娘の心配をしてはいけないの? 華仙は母にそのような酷いことを言うの?」
酷いこと……。
華仙としては苦笑する思いだったが、それに反して冬香の頬が益々膨らんでいく。そんな母親の様子を見ながら華仙はしまったと思う。いらないことを言ってしまったようだった。
「いえ、そういうことではなくて」
華仙は慌てて否定をしたが、ではどういうことだと自分で言いたくなる。
「やはり、陽の国は城門を開けようとしているのでしょうか」
華仙は以前、
「どのように、ということは分からぬが、そうであろうな。我らとは違って大きな戦に慣れている国だ。自国の被害を最小限に抑えようとするであろう」
そういうものなのかと華仙は思う。考え込んだ様子の華仙に威侯が言葉をかけた。
「家に一度、華仙は戻れ。
「母上が」
急に話が変わった上に母親の名を持ち出されて渋い顔をしている華仙に向かって、威侯も同じように渋い顔を返した。
「華仙、そのような顔をするな。母親として娘の心配をするのは当然だ」
「それは分かりますが、母上と会いますとお説教が始まりますゆえ」
華仙の頬が膨らみ始める。
「お説教ではないぞ。娘を心配しての言葉だ」
威侯は苦い顔をするが、声は小さくなる。それを世の中ではお説教と言うのではないかと華仙は思う。
「そもそも、父上が母上を甘やかすからです。私に武芸を幼い頃から学ばせて、戦場も含めて私を連れ回しているのは父上ではないですか」
「それは将軍家の娘としてだな」
「ならば、母上にもしっかりと父上からそう言って下さい。女だてらに剣を持つなんてなどなど、いつも小言を言われるのは私なのです」
「いや、それは娘を心配してだな」
「それは先程、聞きました」
華仙が、ぴしゃりと言うと、威侯は黙りこんでしまう。どうも父親の威侯は母親の冬香に甘い。甘いというか、弱いのだと華仙は思っている。
「余り怒るな。お前が怒ると冬香に似てきて、何も言えなくなってくるのだ」
威侯が小声でぼそりと言う。母親の冬香のことになると、威侯はいつもこのようになってしまう。
全く、いつもの無駄に馬鹿でかい声はどこにいったのだと華仙は思う。
「分かりました。ここは父上の顔を立てましょう。今日は家に戻るとします」
溜息を吐き出しながら華仙が言うと、威侯はそれまでと変わって嬉しそうな顔をするのだった。
「母上、ただ今、戻りました」
家に戻ってきた華仙の姿を見ると、母親の冬香は安堵した表情を浮かべた。
「心配したのよ、華仙。父上は何もおっしゃってくれなくて、自分と
冬香はそう言いながら頬を膨らませる。我が母親ながら、相変わらず振る舞いが少女のようだと思いながら華仙は口を開いた。
「母上、ご心配をかけて申し訳がありません。私は玄様のお傍でお守りしているだけですので、戦場に出るようなことはありません。ですので、安全なのです」
冬香に余計な心配を与える必要はないので、これぐらいの嘘はいいだろうと華仙は思う。口が裂けても今日、敵陣へ斬り込みをかけたなどとは言えない。そんなことを言えば、今からでも家に軟禁されてしまうかもしれない。
「そうは言っても、戦場にいることは変わらないでしょう? 急に矢とかの危ない物が飛んでくるかもしれない。急に飛んできたら、父上たちだって防げない時があるかもしれないのよ」
危ない物……。
まあ、危ない物には違いないのだけれども、と華仙も思う。
「母上、私の近くには常に父上も黄帯もおります。ですので、無用な心配かと」
「無用な心配? あら、母親が娘の心配をしてはいけないの? 華仙は母にそのような酷いことを言うの?」
酷いこと……。
華仙としては苦笑する思いだったが、それに反して冬香の頬が益々膨らんでいく。そんな母親の様子を見ながら華仙はしまったと思う。いらないことを言ってしまったようだった。
「いえ、そういうことではなくて」
華仙は慌てて否定をしたが、ではどういうことだと自分で言いたくなる。