第16話 諸国連合

文字数 1,663文字

 (きり)の国のように、山間にある小さな貧しい国が脅威を感じるような類の話ではないはずだった。自分の国を卑下するつもりはないのだが、田舎の山間にあるような貧しい国を(よう)の国のような大きな国が、わざわざ滅ぼして併合しようとする理由はないように思えた。

 そんな疑問が自分の顔に出てしまっていたのだろう。威候(いこう)華仙(かせん)のそのような顔を見ると再び厳しい顔のままで口を開いた。

「陽の国のこの動きは、単に自国の領土を拡大したいためではないようにも思えるのだ」

 華仙はこの言葉に首を傾げてみせた。国が他国と次々と争う理由が領土拡大といった野心以外に何があると言うのだろうか。

「領土拡大の野心があることは否定できない。だが、それ以上に自らの国が持つ文化、宗教を広め定着させることが命題だと思っている節が見られるのだ」

 文化、宗教を広める。今ひとつ華仙には納得できない話だった。そもそも、そんなことに何の意味があるのだろうかと思う。国ごとに文化も宗教も違うことなどは当たり前ではなかろうか。

 そう考えていた華仙に対して威侯が再び口を開いた。

「我々ではそのような陽の国の考えなど理解できぬ。土台にある考え方が互いに違うのでな。それが文化というものなのだろう」


 理解できぬと言われてしまえば華仙にも分かるはずがなくて、華仙は何となくといった感じで頷いた。

「ですが父上、陽の国と我々霧の国との間には幾つもの小さな国々があります。それら全てを征服して、陽の国が霧の国まで侵攻してくるということでしょうか?」

 陽の国と霧の国の間にある様々な国々。大きな陽の国にとってみればそのどれもが小さな国でしかない。だが、いくら小さな国といっても、それら全てを征しながら霧の国までやってくることなど可能なのだろうか。

「何も武力だけで征服していく必要はないだろう。陽の国の強大さを見て、自ら降ろうとする国もあるはず」
「戦わずにですか?」
「戦ったところで、陽の国に勝てるはずもない。ならば犠牲を出す前にと考える国があっても不思議ではない。いや、逆にそう考える国々の方が遥かに多いかもしれぬ」

 それはそうかもしれないけれどもと思いながら、華仙は納得できずに口を開いた。

「ならば、かつてのように我々も諸国連合を作って対抗するのはどうでしょうか?」

 諸国連合。華仙がまだ生まれる前の話だが、霧の国も含めて周辺の小国が集まって連合を形成したことがあった。

 今でこそ分裂を繰り返して小さな小国となってしまったが、当時は東の大国として知られていた()の国にその連合をもって果敢に立ち向かったのだった。

 その時に比類なき武人として周辺諸国に名を知らしめたのが、華仙の父親である威侯だった。

「諸国連合か」

 威侯が懐かしそうに目を細めた。

「残念だが、今は諸国連合に賛同する国は多くないであろうな。そして、数国程度の連合では、今の陽の国に立ち向かうことは無理であろう。それこそ木っ端微塵に粉砕されるのが目に見えている」

 ならばどうするのだと華仙は思う。戦わずして陽の国に降るのか。それとも文字通り戦って木っ端微塵となるのか。

 そんな華仙の思いが通じたのか威侯は苦笑を浮かべた。

「そのような顔をするな。陽の国が侵攻してくると決まったわけではない。そのような可能性もあるということを伝えたかったのだ。侵攻があるかもしれない。そう考え予め手立てを考えておく。考えておくのとそうでないのとでは大きく結果が違ってくるものだからな」

 かつて(げん)が自分に言ったことと同じようなことを威候が口にする。
 確かにそうかもしれない。だが、内容が内容であるため悪戯に不安を煽るだけのような気もする。
 それに手立てといってもどうすればよいのか皆目見当がつかない。

「だから、深刻そうな顔をするなと言っている。そのようなことでは杞憂に終わるものも終わらなくなってくるぞ」

 父親の威侯が苦笑めいたものを浮かべている。
 
 (くま)の国に勝利した時に感じた得体の知れない不安。それと同じ類いの不安に今、自分が包まれていることを華仙は感じるのだった。
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