第4話 旧王国派の亡霊

文字数 3,257文字

 数日後、ターレスでの用事をあらかたすませ、ザカールとシャインガムが首都に戻ろうとしていたら、驚くべきニュースがもたらされた。

「何ですって。シャトルが武装集団に襲われて、メモリバンクユニットが奪われた!?」
 慌てるシャインガムに向かってザカールが叫ぶ。
「JJ。急いでシャトルに戻るぞ。素人がユニットはがしたんじゃ、どうなってるかわかんねえ!!」
「はい! 至急、ヘリを手配してもらいます!!」

 シャインガムと伴に急ぎシャトルに戻って犯行現場を視察したザカールは驚いた。
「おいおい。これ本当に素人の仕事かよ……俺が付けたバックアップ用のバッテリーごと、綺麗に持ってかれてやがる。それで、犯人の目星は?」ザカールの問いに、シャトル守備隊の隊長が答えた。
「申し訳ございません。現在、軍が総力を持って追跡中です。それでザカール中佐。ラムゼー将軍が中佐と直接お話がしたいと……」

 シャトル周辺に仮設の小屋がいくつか建てられており、そのうちの一つに入って、ザカールはラムゼー将軍をコールした。

「ああ、ザカール中佐。せっかく貴君に手伝って頂いているところを、とんだ失態で申し訳ない。それで、盗まれたメモリバンクは今どうなっていると思われる?」
「ああ。この泥棒はこのタイプのメモリバンクの仕組みをよく分かっている様だ。ちゃんと俺が設置した予備電源ごと綺麗に運び出しているんで、まあそのままでもひと月は持つだろう。多分、トレーラ―一台分位で移動していると思う」
「ひと月か……それでは、それまでに発見・回収出来ない場合は、あれらの人格データとDNAパターンはすべてこの世から消えてしまうと言う理解でよいかね」
「そういうこった……って、ちょっと待て。まさか共和国は、このまま見つからなくても手間が省けるとか考えてんのか?」
「いやいや。決してそう言う訳では……だが、政府内にそうした意見もあるのは否定しないよ」ラムゼー将軍との通話はそこで終わったが、外に出て来たザカールがいつになく深刻な顔付きをしていて、シャインガムはそれが気になった。

「何か、よくないお話でしたか?」
「ん? ああ。まあ、共和国さんとしてはそれでいいんだろうが……ダメだ。俺が考えても方針がまとまらねえ。すまねえJJ。至急ミーシャと話がしたいんだ。手配してくれ!」
「あっ、はい。了解しました」
 そう言いながら、訳も分からずシャインガムはプライベートの携帯端末を取り出した。

 そしてシャトルの様子をつぶさに検分した後、ザカールはシャインガムと共に急ぎ首都に戻り、ミーシャと待ち合わせをしたレストランにまっすぐ向かった。
 シャインガムが予約した個室に入ると、すでにミーシャが待っていた。

「それで、例の確認は?」ミーシャの問いにザカールが答える。
「いや、まだそこまでいってねえ。電源確保するので手いっぱいだったしな。だが、メモリバンクが盗難にあって、よくてあとひと月くらいしか中身が保証されねえ。だけどこの国も軍も、そんなに一生懸命探す事はしないかもしれん。あれは彼らにとってただの厄介者だしな。だから、俺達で探すのが早いかと思ってあんたに声をかけたんだ」

 ◇◇◇

 シャトルから旧王族関係のメモリバンクが奪われてから二週間程が経過した。

「ミーシャ補佐官。旧王族メモリバンク盗難事件の犯人たちの拠点が判明した模様です。現在、軍と警察が包囲・突入の準備をしています」
「そう。ご苦労様。現場には、くれぐれもメモリバンクを損壊しない様厳命して。それから押収したものは、すべてターレスで待機しているザカール中佐の所に搬入し、指示を仰いでください」
 ザカールから相談を受けたミーシャは大統領に(はか)って、今回のメモリバンク盗難事件の捜査指揮権の一部を任せてもらい、一連の情報が自分を通る様にしてもらっていた。

「それで犯人一味はどうしますか?」
「普通に逮捕・拘束でいいわ。まったく……旧王国派が百年以上潜伏出来た秘密を解き明かさないとならないわね。でもまあ、その辺は公安のクルクス本部長にお任せかな」

 そして翌朝。ミーシャの元へ、メモリバンク盗難事件の一味のアジトに警官隊が突入し、その場にいたメンバーを全員生存のまま逮捕して公安に連行。アジト内にあったものは、メモリバンクも含めすべてターレスに回送中との連絡が入った。

「やれやれ。これでひと段落ね。それで……何よこれ!? 半年前に盗難にあったアリーナ像も奴らのアジトにあったの?」ミーシャの問いに、そばにいた職員が答えた。
「銅像だったのか……よくは分からないんですが、いっしょにターレスに送ったと報告が来ています」
「そう……それじゃあとでザカールに確認するわ」

 三日後。メモリバンクは無事、ターレス要塞内に作った収容施設に設置されたと報告を受けた。そしてザカールが言うには、至急ミーシャにターレスまで来てほしいとの事だったので、忙しい所をやりくりしてターレスに着いたミーシャにザカールが駆け寄って来て言った。

「よく来てくれた。とにかく、こっち。早く来て見てみてくれ!」
 せかされるままにある部屋に入ってミーシャも驚いた。
 
「えっ!? ちょっと、これ…………アリーナさん?」
 眼の前のベッドに、下着だけのアリーナが眠る様に横たわっている。いや正確にいうとスフィーラのボディーが横たわっているのだ。

「ザカール。どういう事なのこれ?」
「いや、俺もびっくりだ。これ、あの公園の銅像だよ。JJに聞いたんだが、半年前に盗難にあってたんだってな。旧王族派だっけ? もしかしたら、こいつらも旧王族の宇宙船の帰還を事前に察知して、人格の受け皿を用意をしようとしてたんじゃねえの?
 しっかし…‥まさかこれほどの技術でスフィーラをレストアしてしまうとは……このまま放っておいたら、本当に旧王族の人格蘇らせたんじゃねえか?
 それでミーシャ。勝手な事言うけど……これやった技術者。俺に預けてくれないか?」

「くれないかって……一応、今は犯罪者として拘束中だし何とも言えないけど、貴方が言わんとしてる事は分かるつもりよ」
「ああ。こいつがどこでこのスキルを身につけたのかもすんごい興味がある!」
「わかったわ。上と相談してみる。旧王族の人格をアンドロイドにレストアするにしてもこうしたアンドロイド筐体の関連技術者は貴重だしね。それで例の件もよろしくね」
「ああ、わかってるさ。なにせ旧式なもんで慎重に調べないとな」

 ◇◇◇

「ちょっと待って! 本当にあなたがあの銅像をレストアしたの?」
 首都の公安本部施設の留置場一角で、自分が今、相対しているネモフィラと名乗る十七歳の少女が、中央公園の銅像からスフィーラの本体をレストアしたと聞き、ミーシャは我が耳を疑った。

「あなた……一体どこでこんなスキルを?」
「…………」
 ミーシャが何を言っても首を縦横に振るだけで、少女は一言も発しない。もしかして言葉が発せられないのかと脇にいた取り調べ担当官に確認したが、そうではなさそうだ。

 するとそこへクルクス公安本部長がやって来て話しだした。
「ミーシャ補佐官。やはり旧王国派の連中は、事前に宇宙船の帰還を把握していて、旧王族達の人格の受け皿としてアリーナ像を使うつもりだったようです。ですが機体が整備出来ても、肝心の人格データを写す事には、全くメドが立っていなかった様ですがね。
 まったくお粗末な計画だ。ですがお陰様で、旧王国派の残党を根こそぎに出来そうです」
「そうですか。それでこの娘は?」
「仲間内ではネモフィラと呼ばれていた様ですが、その素性は現在公安で調査中です。
 今はそんなに手荒な尋問は出来ませんのでちょっと時間がかかるかもしれませんが……詳細が分かりましたら、またご連絡致します」
「なるほど……でも、それじゃすぐザカールには預けられないわね」
「いやいや何を無茶な事を。当面は無理ですよ。まずは旧王国派の全容解明が先ですから」
「わかりました。それでは、後日のご報告を宜しくお願い致します。

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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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