第86話 たこつぼ作戦

文字数 3,331文字

「老師様。はじめてお目にかかります。ここの指揮を執るメンバーの一人、ダルトンと申します。いままでのご支援、心から感謝申し上げます」
 ターレス要塞に逃げてきた魔導教会のじじい様に、ダルトンが基地を代表してあいさつをしていた。

「いや、堅苦しい挨拶はよい。
 ダルトン殿。こちらこそ急に押しかけてすまなんだな。
 さすがの魔導教会も、女王奪還作戦で主力があっちにいってしまっていて、あの飛行戦艦相手では荷が重いのだ。是非力を貸してほしい」
「はい。出来る限りの事はする所存ですが、なにせあの飛行戦艦。飛んでる奴を相手にするのはなかなか骨が折れます。この間はたまたまゲートと一緒に一隻片付けられましたが……」

「以前、一度あれを落としておろう。あれはダメなのか?」
「HAMMですか。あれは虎の子の最後の一発だったんです」
「そうか……通常戦力ではちときついかのう」じじい様も元気が無い。
「ゲートを奪取すれば、あちらから主力を招き入れられると思うのですが、如何せん間に合うかどうかと言ったところでして」

「あのー。その以前落とした時はどうやったんすか?」声を上げたのはザカールだ。
「おお、ザカールか。そうじゃな。お主なら何か対策を思いつくかもしれん。
 ダルトン殿。こやつ性格はねじ曲がっているが結構有能な技師じゃ。
 アリーナの人格バックアップ計画にも噛んでいる。
 一度話合ってみてはくれんか?」

 じじい様はそう言うが、こいつ……あのマーダーⅡ作った奴だろ?
 メトラックだって、そもそもこいつが余計な事をしなければ……。
 ダルトンは半信半疑ながら、ザカールと打ち合わせを持つ事にした。

「なーるほどなー。反重力ユニットの出力を邪魔する……か」
「ああ。詳しい事は俺にも分からないし、実際にブツを隠していたアルマンも原理はよく分からんと言っていた」
 ダルトンは、ザカールの人を喰ったような対応が気に入らない。

 ザカールは、メモを取りながら一人でブツブツ呟いている。
 そしてしばらくして顔を上げてダルトンに向かって言った。
「今、何人歩兵動員出来る?」

「どういう事だ? まあいいか。こないだのゲート戦で総力の半分失って、その後、各都市の支援に行ったり旧王都サイドの防衛に回したりしているんで、直ぐ動けるのはいいところ三百というところかな」
「足りねえ。五百集めろ。なんなら魔導教会の連中やじじい様使ってもいい」
「だからどういう事なんだよ!?」

「今の手持ちの器材料じゃ、お前のいうHAMMと同じ効力のものは作れねえ。
 こう……弾頭を五百個位、一秒毎位に一発ずつ飛行戦艦に当てて行くしかねえと計算した」
「なんだって? それで奴が落とせるのかよ?」
「ああ、計算上はな。だが相手もじっと待っちゃくれねえ。
 撃つ方も自分の身は自分で守らにゃならねえ。出来るか?」
「出来るかと言われても……自分の身を守りながらとか、熟練兵ならまだしも、頭数だけ揃えても……」
「うーん。しょうがねえなー。
 まあ、相手は主に攻撃ドローンだよな? だったら……」
 ザカールが突然なにか絵を描き始め、ダルトンがそれをじっと眺めていた。

「出来た! おい、ダルトンって言ったよな。この図面みたいに、奴がこの基地に飛んでくる飛行経路の下にたこつぼを掘れ。そんでこの五百のたこつぼにひとりづつ隠れて、一発づつ俺の作った弾を発射しろ」
「……わかった。しかし間に会うのか? 五百発の弾。
 やつは明日の昼前にはここに到着するぞ」
「ふっ。任せておけ。あんたはいまから兵に徹夜でたこつぼ掘らせるんだな」

 そうしてダルトンの号令一過。ターレス基地にいたレジスタンスと魔導教会のメンバーは、飛行戦艦の空爆予測ライン下に、徹夜でたこつぼ掘りを始めた。

「はは、タルサ。すまねえ。自分でちゃんと掘れれば良かったんだが」
 たこつぼを掘っているタルサの脇で、JJがすまなそうに言う。
 今回の作戦は頭数が勝負との事なので、負傷中のJJも駆り出された。

「ほら。これなら入んない?」
 タルサに促されて一度入ってみるが、ちょっと小さくて頭が半分出てしまう。
「まったくもう。いつの間にそんなに大きくなったのよ!」
「仕方ねえだろ。まだ成長期なんだよ!」

 結局もう一回り大きく掘り下げ、JJがすっぽり入るのを確認してから、タルサは自分のたこつぼに取り掛かった。
 隣近所でもレジスタンスメンバーが、まだたこつぼ掘りを懸命に行っていた。

「でも、これで本当に何とかなるのかしら。爆弾落とされたらおしまいじゃない」
「まあ、いままで攻撃ドローンしか出て来てねえからな。
 あれの狙撃ならこのたこつぼでごまかせんだろ」

 そして明け方近く。
 予定したたこつぼは完成し、レジスタンスのメンバーたちは各自たこつぼに収まった。そしてそこに、長さ1.5m位で直系10cmの竹筒の様なものが配られた。

「これが、攻撃用? ミサイル?」
 それを渡されてJJが首をかしげるが、配布しに来た兵が説明する。
「ああ。こん中のノリ固めた粘土みたいのが飛行戦艦にくっつきゃいいらしい。
 たこつぼから出なくていいんで、ここのシグナルが青くなったらこの紐引けば、射程は七~八百m位あるらしいから、慌てずに狙えってさ」

「ふーん」
 まあ、今更疑っても仕方ない。JJはそれを抱えてたこつぼに入り、筒を上空に向けたままたこつぼの口にこもをかぶせた。

 その様子を要塞からダルトンとザカールが確認していたが、ほぼ一帯状の直線に、
たこつぼが並び、そこから竹筒がちょろっと顔を出している。
 近くでみると明らかに異様だが、五百m上空からだと、まあわからないだろう。

「あの粘着性の粘土にしみこませたノリは魔導装置にも使うマナ吸着素材なんだけど、一発にして飛ばすには濃縮装置がないと無理なんだ。だから、小分けにして薄いまま飛ばすしかないのさ。まあ五百のうち半分当たれば何とかなると思うぜ」
 ザカールが得意気に説明した。
 まったくこいつはいけ好かないが、確かに優秀な技術者の様だ。
 これならアリーナの人格バックアップも何とかしてくれるかもしれない。
 ダルトンはそう感じた。

「ザカール。ちょっと話掛けていいかい」ダルトンが言う。
「なんだい隊長さん」
「あんた、あのアリーナの人格バックアップにも関与してるんだってな。
 それでどうなんだい。そっちは見通し立ちそうなのか?」
「ああ、それか。確かに面白いテーマなんだが……正直見通しは暗いな。
 何せ、人格を格納するくらいの外部記憶装置ってのが特注なんだよ。
 そんなものエルフの国にはないし、こっちの旧王国の施設もほとんど吹っ飛んじまっていてない。あの……メトラック君だっけ? 彼は小型のものを並列でつなぐ事を考えていたらしいけど、それじゃ多分、今から一年以内には完成しない」
「そうか……まあ、よろしく頼むわ」ダルトンは残念そうにそう言った。
「ああ。それよりあと二時間位で奴が目視確認出来るところまで来てるぞ。
 段どりを間違えるなよ!」ザカールがダルトンに念を押した。

 そして正午近く。
「目視確認! 飛行戦艦。距離十二km」ウォッチの声にダルトンが双眼鏡を覗く。
「はは、ドンピシャだ! 予想した爆撃コースで入ってきやがった!」
 ザカールが歓声を上げた。

「よし、各たこつぼに連絡。作戦は予定通り。繰り返す。作戦は予定通りだ!」
 そう言ってダルトンとザカールが固唾を飲んで飛行戦艦の接近を見つめていた。

「攻撃開始ラインまであと三分!」指揮所にアナウンスが流れた。
 ダルトンは緊張して飛行戦艦の接近を睨んでいたが、突然ザカールが声を上げた。
「ああっ!」

「えっ!? おいどうした。まさか何か見落としたか?」
 慌てるダルトンにザカールが言った。
「いや……さっきの外部記憶の件なんだけど、あの飛行戦艦。反重力モジュール使ってるんで、運動エネルギーとか慣性モーメントの計算にトンデモなく演算処理能力が必要なんだよ。もしかしたらあいつのメモリーとか使えるんじゃねえか?」
「あー」ダルトンは、ビックリした。
 こいつ、作戦中って言う緊張感ねえのかよ。でも、そりゃ朗報だ。
「そりゃ何よりだ。だが今は、あいつを落とす事に専念しようぜ!」
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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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