第27話 12mm対アンドロイド用速射砲

文字数 2,702文字

 アリーナが弾薬庫から戻ってみると、あたりは騒然としていた。
 ダルトンに早くアルマンの所に行けと言われ慌てて行って見ると、敵の総攻撃が始まったとの事だった。すぐに敵は来ないだろうとタカをくくっていたレジスタンス達はハチの巣をつついたような騒ぎになっている。

「どうするアルマン?」6Cのリーダがアルマンに問う。
「いや。こうなったら一点突破しかねえだろ。
 敵の囲いの北側ぶち破って、1A要塞目指すしかねえ」
「だが、今の我々の戦力で囲みが破れるとは……」

「私が行きます!!」アリーナが大声でそう叫んだ。
 しかしアルマンがそれをいなした。

「おい、熊殺し。今度ばかりは夕べみてえに行かねえかも知れねえぞ。
 少なくとも一個中隊が動いている。
 敵のキャンセラーも、一個、二個じゃねえはずだ。
 もちろんキャンセラーの排除に全力は尽くすが……」

【アリーナ。本機も推奨しません。小隊レベルならまだしも、中隊規模以上に当たるとなると、キャンセラーも複数想定すべきです】

「任せて下さい。私には秘策がありますから……ここでは言えませんけど」

【アリーナ。魔法をあてにしているなら危険です! 
 いままで随意での操作には成功していません!】
(違うのモルツ。私には分かるの。
 私、さっきのJJとメランタリを見て、すっごく興奮しちゃってるの。
 それでね。マナの流れが直接感じられるくらい、自分の魔法力が高まっているのが分かるのよ。私って……エッチな子だったんだね……)

【アリーナ。確かに、性感モニターは今だMAXに近い値を示していますが……。
 分かりました。魔法の部分は本機には計算不能です。アリーナにお任せします】

 こうして、スフィーラを先鋒にして、主にキャンセラーに対処する部隊が続き、そのすぐ後ろに非戦闘員や護衛の面々が続く事で、一丸となって1A要塞を目指す事が決定した。あまり間を空けて移動して分断されると、各個撃破されてしまうに違いない。

 ◇◇◇

 JJとメランタリが6Cの居住区に戻ってきたとき、アリーナと後続部隊の一部は、すでに前線に出発していた。

「おいお前ら、遅えよ。何やってたんだ? 
 スフィーラが様子見に行っただろ?」
 ダルトンにそう言われて、JJとメランタリは仰天した。

「それじゃ、あそこにいたのは……スフィーラだったの!?」
「あああ……そんな……そんでスフィーラは?」JJがダルトンに食いつく。
「ああ。活路を開くって言って先鋒で飛び出して行ったぜ。
 今度はキャンセラーも一つじゃないだろうし、危ねえって言ったんだが……。
 ああ、お前らは俺といっしょに一番後方の護衛な。
 どうせ今の状態じゃ、前線での働きはあてに出来ねえだろうし……」

「ああ、どうしようメランタリ。スフィーラまさかヤケ起こして……」
 JJが激しく動揺する。
「そう……ね。ああスフィーラ……」
 今更ながらではあるが、JJもメランタリも一時の情動に身を任せてしまった事を、後悔せざるを得なかった。

◇◇◇

【キャンセラー反応 2。位置を後続にフィードバックして下さい】
「了解!」

 今の所、後続部隊と連携してのキャンセラー対策はうまく行っている。
 戦いは好きではないが、さっきの事を頭から追い出すには、不謹慎ではあるが、気が紛れて丁度良いとアリーナは思った。

【敵がキャンセラーを増強。対処が間に合いま……】
 突然、モルツの反応と、スフィーラの手足の感覚を消失した。

(くそ、キャンセラーか。でも、全く初めてじゃないからそんなに動揺しない。
 うまく後続が対処してくれればいいけど……うーん。間に合いそうにないか。
 それじゃ!)

 アリーナは、自分の性的興奮がまだ収まっていないのを感じていた。
 いや、それとは別で、戦っている間に新たな高揚も感じられてきている。

(いやだな。私、このまま戦闘マシーンになっちゃうのかしら……)

 しかし、ここまで来てためらう事は、みんなの死を意味する。
 アリーナは自分の感覚の赴くまま、土魔法を行使した。

 動く! ちゃんと思う通りにスフィーラの身体が動く!!
 アリーナはそのまま前進し、敵の歩兵をなぎ倒していった。

 やがてモルツが復旧した。味方がキャンセラーを排除してくれたのだろう。
 土魔法を使い続けてどれだけの持久力があるのかも未知数なので、休憩(インターバル)があるのはありがたい。

 よしっ! これならいけるわ!!

 ◇◇◇

「少佐。緊急電です。
 やはりキャンセラーが効かない事例が出ている様です。レジスタンスのゲリラもキャンセラーの排除に動いておりますが、その間隙をついて確かに有効に作用したキャンセラーがあっても、アンドロイドは活動を継続している様です」

「ふう。ようやくだな。こちらまで出張って来た甲斐があったというものだ。
 それでは対機械歩兵師団、作戦開始!!
 速射砲を設置した高台から見下ろせる例の所に、速やかにアンドロイドを誘導する様、前線に指示してくれ」

「了解!」

 さあ、アンドロイド。私の特殊徹甲弾で、もうすぐお前を案山子(かかし)にしてやる!
 まあ女性という事なので、せめて美しく活動停止出来る様に配慮はしてやろう。

 6C拠点から1A要塞までの間に、盆地の様に広く開けた低木の林があり、周りの高台からは視界が効きやすい。サルワニはその一角に露地を作ってポイントアルファと命名し、その周りの高台の数か所にエルフの世界から持って来た12mm対アンドロイド用速射砲を急ぎ設置させた。

 この兵器は、サルワニが対アンドロイド用として試行錯誤の末開発したもので、通常の速射砲にくらべ格段に口径が小さいのだが、実はこれがミソなのだ。

 アンドロイドの装甲はかなり頑丈で、爆弾などではかなり大型のものでないと、致命傷を与えられない。しかしこの速射砲は、特殊徹甲弾を初速マッハ7で撃ちだし、アンドロイドのバイタルパートや関節部分を、針の様に貫くのだ。

 生身の人間であれば、脳や心臓のような急所を直撃しない限り、過貫通になってしまい大ダメージは与えられないのだが、アンドロイドは機械だ。
 部品の一部を削っただけで関節などは動かなくなる。
 しかも砲自体が小型で、車やヘリでも簡単に運べる様に、デザインも工夫されている。速射砲というより狙撃銃に近いかも知れない。

 しかし運用上注意すべき点もある。
 アンドロイドの胴体にはリアクターが装備されていて、それにこの特殊徹甲弾が当たった場合、放射能漏れや最悪核爆発の危険もある。
 そのため、アンドロイドの胴体を撃つ事は、サルワニ自身が固く禁じていた。

 どうやら攻撃の準備が出来た様だ。
 サルワニは被っていた帽子を正し、前線に向かった。

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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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