第68話 セクサロイドの意味
文字数 3,195文字
修理した膝も全く問題なく、スフィーラは速射砲で撃ち抜かれる前の状態にほぼ戻った。メトラックとはあれから何度か顔を合わせたが、スフィーラの顔をまともに見ようとしない。まあきまりは悪いと思うけど、少しは反省しているんだろうか。
そして定例の技術研修会で、メリッサがスフィーラのスペックの由来について語る事になった。
「だいたい、なんで軍用の兵士アンドロイドに性交機能が必要だったんですか?
戦地で将軍が息抜きする為とか? それとも女スパイ仕様? ああ、でもそれなら男の子型はなぜ……いや、あるか」アリーナが言う。
「ええとね。それ順番が逆なのよ。まずSexが出来るアンドロイドが必要とされて、それが戦争が進むにつれて軍事に技術流用される様になったと言うところが近いかも」
「はあ。どういう事でしょう? なんでアンドロイドがSexする必要があるのか、全く分かりません」
アリーナが匙を投げた様にそう言ったが、メトラックが口を開いた。
「単にダッチワイフ的な意味合いのものでないとしたら……もしかして外宇宙への探査移民用?」
「正解よメトラック。もともとS型のセクサロイドは、戦争前から外宇宙探査で使用する目的で設計が開始されたの。大戦末期に逃げ出した王族もそうなんだけど、外宇宙に出て行く場合、ヘタすると何百年も定住可能惑星にたどり着かない可能性もあるので、人間は肉体を持って行けなかったのよ。それこそ人格データとDNAパターンの記録だけになってロケットに乗り込む訳。
それでロケットの操縦自体はAIでもなんとかなるんだけど、航海途中の突発事項への対応や、定住可能惑星に到着してから肉体復元プロセスを稼働させるにあたり、やっぱりAIだけには任せられなくてね。搭乗者の人格データを、今のスフィーラみたいにアンドロイドに移して、交替でそれらのイレギュラーを監視、対応させる目的で設計されました」
「ああ……それでほぼ人間と同じ事が出来る様にって事ですか?」
メトラックが言う。
「そうよ。交替って言っても、分担時間はとても長いし、一人だと多分発狂しちゃう。だから友人とか恋人とか夫婦とかで、複数人数での交替が想定されたのよ」
「はは、そうだね。みんなひとりでは生きて行けないし、いっしょにいればエッチもしたくなるよね」アリーナがそう言うと、メトラックの顔が真っ赤になった。
「まあそんな訳で開発が始まったんだけど途中で戦争になって、その技術から最初は性交機能とか関係ない純粋な軍用アンドロイド兵士が実用化され、実戦投入されたのよ。そしたらそれもあのキャンセラーが出て来て通用しなくなってね。
それならここまで完成度の高い機体が出来たのだから、外宇宙用のセクサロイド開発をまた始めたらって事になってさ。
私はその頃まだ十代だったんだけどS型の開発チームに入ったの。
でもまあ、それも今思えばそのあたりから、王族達が自分達の逃亡時に使おうとか考えてたのかなと思うわ。結局間に合わなかったけどね」
確かに、メリッサの言う事は当たっている様にも思える。
「そんな訳で、人によっておっぱいの大きさとか、あそこの作りとかも違うでしょ?
だから軍用では不要に思える機能も付いてるって訳!」
「そっか。宇宙空間を航行中に、好きな人と二人だけ……なんかロマンチックね」
アリーナがそう言うと、メトラックと眼があってしまい反射的にこう言った。
「あんたとは嫌だからね!」
そうしたらメトラックが本当に消え入りそうなくらい小さくなってしまい、ちょっと可哀そうかなとも思った。
でも、悪いのこいつだし……それでもまあ……仮にJJといっしょだったとしても、なんか私、ケンカばっかりしていそうよね。
そうやってまたJJの事を思い出し、アリーナは軽く自己嫌悪に陥った。
◇◇◇
ここに軟禁されてからもう半年近くになるが、いつまでここに置いておくつもりだ。この状態が続くなら、さっさと殺された方が楽だとは思うが、パルミラを放っておいて先に行ってしまう訳にもいかない。
サルワニは、どことも知れない病院の一病室で鬱々と日々を過ごしていた。
これではレジスタンスに監禁されていた時のほうが全然マシだったと感じる。
病室には、鉄格子が嵌まってはいるが窓が一つあり、少し空を見る事が出来る。
そして数か月前、飛行戦艦が遠くを飛んでいるのが見えた。
あれは、もしかしたら人間達を攻撃して戻ってきたのだろうか。
彼らはどうしているのだろうか。結局、女王に会う事も叶わず、目の前で死んでいったレジスタンスやカイネル達にまったく面目が立たない。
だが……絶対このままでは終わらんぞ。
私は執念深いのが取りえだからな。
そんな事を考えていたらある日、軍からの使者が来た。
「少佐。こちらでの生活はいかがですか?」
「いかがも何も、何もする事がなくて三食昼寝付きだ。体の筋肉は全く落ちたのに、体重はかなり増えたと思うぞ。
それで、お前達は私をどうしたいのだ?
邪魔だと言うならサッサと殺してくれた方がマシだと思う事がある」
「あなたには一つお願いしたい事があります。例の、あの女アンドロイドなのですが……あれを確実に屠っていただけないでしょうか?」
「何だ。軍はまだあいつを仕留められていないのか?」
そうは言ったものの、スフィーラの無事が分かって、サルワニはちょっとホッとした。
「あれは今、魔導教会の管理下に置かれていて、我々が自由に処分する事が出来ません。それで、今後の我々の計画の邪魔になる可能性が高く、秘密裏に抹殺したいのです」
「ほう。魔導教会……軍は私が素直にそれに従うと信じてくれると言うのかな」
「もちろんです。パルミラ様もあなたがそうなさると、固くお信じになられています」
「くっ!!」そういう事か。パルミラが人質という訳なのだな。
「そうか……それでは私にはイエスしか選択肢は無さそうだ。
だが、私の速射砲はもう敵にネタバレしているぞ。
うまい事狙撃出来るところに出て来てくれるとは思えんのだが?」
「ですので、助っ人をお付けいたします。
と言いますか、そっちが主力で、貴方の速射砲が予備戦力になるんですが」
「おやおや。そんなにすごい助っ人が……いや待て!
それはもしかしてあの時の!?」
「そうです。少佐もご覧になったでしょう。あの少年型のアンドロイドを。あれで女アンドロイドを追い詰めますから、少佐にとどめを刺していただければと。
そうすれば少佐は、人間共から裏切り者扱いされ我が軍の一員として返り咲けるでしょう」
◇◇◇
「マジっすか? 私のマーダーⅡとサルワニ少佐の速射砲で連携作戦?
いやいやいや。今更なんでそんな話に?」
ザカールが、ランダイスから渡された指令書を読んで文句を言った。
「お前なー。軍から研究費だけ貰って好き勝手出来る訳なかろう。
軍から金を貰うっていうのは、つまりはこう言う事だ。
来月から、試験的に人間のレジスタンス傭兵派遣が開始される。
順調に事が進めばいいが、なにか悶着が起きたらまた揉めるだろう。
そん時になって慌てない様にという事なんだよ。
だいたいお前だって、女アンドロイドと決着つけたいんだろうが!」
「いや。それはそうなんですが……せっかく本部長の人格データコピーさせてもらってセクサロイド仕様にしたばっかりなんで、せっかく奴とやり合うんならサルワニなんかに手伝ってもらわないで、色々試してみたいんですよね」
「お前、セクサロイド仕様って……人の人格データで遊んでんじゃないだろうな!」
「大丈夫ですって。実際にちんちん使うのは、マーダーⅡですから」
「くっ……まあいい。上からは夏のうちに作戦完了しろとのお達しだ。
なのでもうちょっとしたらサルワニも秘密裏にこちらに合流する。
あっちが上官になるんだから、せいぜい準備しておけ!」
そして定例の技術研修会で、メリッサがスフィーラのスペックの由来について語る事になった。
「だいたい、なんで軍用の兵士アンドロイドに性交機能が必要だったんですか?
戦地で将軍が息抜きする為とか? それとも女スパイ仕様? ああ、でもそれなら男の子型はなぜ……いや、あるか」アリーナが言う。
「ええとね。それ順番が逆なのよ。まずSexが出来るアンドロイドが必要とされて、それが戦争が進むにつれて軍事に技術流用される様になったと言うところが近いかも」
「はあ。どういう事でしょう? なんでアンドロイドがSexする必要があるのか、全く分かりません」
アリーナが匙を投げた様にそう言ったが、メトラックが口を開いた。
「単にダッチワイフ的な意味合いのものでないとしたら……もしかして外宇宙への探査移民用?」
「正解よメトラック。もともとS型のセクサロイドは、戦争前から外宇宙探査で使用する目的で設計が開始されたの。大戦末期に逃げ出した王族もそうなんだけど、外宇宙に出て行く場合、ヘタすると何百年も定住可能惑星にたどり着かない可能性もあるので、人間は肉体を持って行けなかったのよ。それこそ人格データとDNAパターンの記録だけになってロケットに乗り込む訳。
それでロケットの操縦自体はAIでもなんとかなるんだけど、航海途中の突発事項への対応や、定住可能惑星に到着してから肉体復元プロセスを稼働させるにあたり、やっぱりAIだけには任せられなくてね。搭乗者の人格データを、今のスフィーラみたいにアンドロイドに移して、交替でそれらのイレギュラーを監視、対応させる目的で設計されました」
「ああ……それでほぼ人間と同じ事が出来る様にって事ですか?」
メトラックが言う。
「そうよ。交替って言っても、分担時間はとても長いし、一人だと多分発狂しちゃう。だから友人とか恋人とか夫婦とかで、複数人数での交替が想定されたのよ」
「はは、そうだね。みんなひとりでは生きて行けないし、いっしょにいればエッチもしたくなるよね」アリーナがそう言うと、メトラックの顔が真っ赤になった。
「まあそんな訳で開発が始まったんだけど途中で戦争になって、その技術から最初は性交機能とか関係ない純粋な軍用アンドロイド兵士が実用化され、実戦投入されたのよ。そしたらそれもあのキャンセラーが出て来て通用しなくなってね。
それならここまで完成度の高い機体が出来たのだから、外宇宙用のセクサロイド開発をまた始めたらって事になってさ。
私はその頃まだ十代だったんだけどS型の開発チームに入ったの。
でもまあ、それも今思えばそのあたりから、王族達が自分達の逃亡時に使おうとか考えてたのかなと思うわ。結局間に合わなかったけどね」
確かに、メリッサの言う事は当たっている様にも思える。
「そんな訳で、人によっておっぱいの大きさとか、あそこの作りとかも違うでしょ?
だから軍用では不要に思える機能も付いてるって訳!」
「そっか。宇宙空間を航行中に、好きな人と二人だけ……なんかロマンチックね」
アリーナがそう言うと、メトラックと眼があってしまい反射的にこう言った。
「あんたとは嫌だからね!」
そうしたらメトラックが本当に消え入りそうなくらい小さくなってしまい、ちょっと可哀そうかなとも思った。
でも、悪いのこいつだし……それでもまあ……仮にJJといっしょだったとしても、なんか私、ケンカばっかりしていそうよね。
そうやってまたJJの事を思い出し、アリーナは軽く自己嫌悪に陥った。
◇◇◇
ここに軟禁されてからもう半年近くになるが、いつまでここに置いておくつもりだ。この状態が続くなら、さっさと殺された方が楽だとは思うが、パルミラを放っておいて先に行ってしまう訳にもいかない。
サルワニは、どことも知れない病院の一病室で鬱々と日々を過ごしていた。
これではレジスタンスに監禁されていた時のほうが全然マシだったと感じる。
病室には、鉄格子が嵌まってはいるが窓が一つあり、少し空を見る事が出来る。
そして数か月前、飛行戦艦が遠くを飛んでいるのが見えた。
あれは、もしかしたら人間達を攻撃して戻ってきたのだろうか。
彼らはどうしているのだろうか。結局、女王に会う事も叶わず、目の前で死んでいったレジスタンスやカイネル達にまったく面目が立たない。
だが……絶対このままでは終わらんぞ。
私は執念深いのが取りえだからな。
そんな事を考えていたらある日、軍からの使者が来た。
「少佐。こちらでの生活はいかがですか?」
「いかがも何も、何もする事がなくて三食昼寝付きだ。体の筋肉は全く落ちたのに、体重はかなり増えたと思うぞ。
それで、お前達は私をどうしたいのだ?
邪魔だと言うならサッサと殺してくれた方がマシだと思う事がある」
「あなたには一つお願いしたい事があります。例の、あの女アンドロイドなのですが……あれを確実に屠っていただけないでしょうか?」
「何だ。軍はまだあいつを仕留められていないのか?」
そうは言ったものの、スフィーラの無事が分かって、サルワニはちょっとホッとした。
「あれは今、魔導教会の管理下に置かれていて、我々が自由に処分する事が出来ません。それで、今後の我々の計画の邪魔になる可能性が高く、秘密裏に抹殺したいのです」
「ほう。魔導教会……軍は私が素直にそれに従うと信じてくれると言うのかな」
「もちろんです。パルミラ様もあなたがそうなさると、固くお信じになられています」
「くっ!!」そういう事か。パルミラが人質という訳なのだな。
「そうか……それでは私にはイエスしか選択肢は無さそうだ。
だが、私の速射砲はもう敵にネタバレしているぞ。
うまい事狙撃出来るところに出て来てくれるとは思えんのだが?」
「ですので、助っ人をお付けいたします。
と言いますか、そっちが主力で、貴方の速射砲が予備戦力になるんですが」
「おやおや。そんなにすごい助っ人が……いや待て!
それはもしかしてあの時の!?」
「そうです。少佐もご覧になったでしょう。あの少年型のアンドロイドを。あれで女アンドロイドを追い詰めますから、少佐にとどめを刺していただければと。
そうすれば少佐は、人間共から裏切り者扱いされ我が軍の一員として返り咲けるでしょう」
◇◇◇
「マジっすか? 私のマーダーⅡとサルワニ少佐の速射砲で連携作戦?
いやいやいや。今更なんでそんな話に?」
ザカールが、ランダイスから渡された指令書を読んで文句を言った。
「お前なー。軍から研究費だけ貰って好き勝手出来る訳なかろう。
軍から金を貰うっていうのは、つまりはこう言う事だ。
来月から、試験的に人間のレジスタンス傭兵派遣が開始される。
順調に事が進めばいいが、なにか悶着が起きたらまた揉めるだろう。
そん時になって慌てない様にという事なんだよ。
だいたいお前だって、女アンドロイドと決着つけたいんだろうが!」
「いや。それはそうなんですが……せっかく本部長の人格データコピーさせてもらってセクサロイド仕様にしたばっかりなんで、せっかく奴とやり合うんならサルワニなんかに手伝ってもらわないで、色々試してみたいんですよね」
「お前、セクサロイド仕様って……人の人格データで遊んでんじゃないだろうな!」
「大丈夫ですって。実際にちんちん使うのは、マーダーⅡですから」
「くっ……まあいい。上からは夏のうちに作戦完了しろとのお達しだ。
なのでもうちょっとしたらサルワニも秘密裏にこちらに合流する。
あっちが上官になるんだから、せいぜい準備しておけ!」