第29話 撃ち抜かれた!
文字数 2,871文字
「出ましたっ!! アンドロイドです!」
その声に、サルワニは立ち上がって再び双眼鏡を手にした。
露地は周辺の高台からサーチライトで照らされ、ここからでも中の様子がよくわかる。
「ほう……あれが女アンドロイド……確かに美人ではあるが……。
しかし、なんという下品な恰好だ! あれでは娼婦ではないか!
奴の指揮官は変態なのか? まったく王国の連中は戦争を舐めているのか!?
……まあいい。全速射砲、発射準備。
……何やら動き方が、従前のアンドロイドのパターンと違うな。
誤射に気を付けろ。正確に膝を狙え。
必ず動きが緩慢になる瞬間があるはずだ。そこを狙え!」
高台の数か所に設置された12mm対アンドロイド速射砲から、照準のレーザーマーカーがスフィーラに向かって投影される。
それを光学センサーが拾って自動で照準を合わせるので、マーカー位置さえ合っていれば誤射はほとんどない。これも旧王国の技術だ。
くそっ、こちらからでは戦車の陰か……。
いや。戦車が撃破された……。
出て来たぞ!
全弾発射!!
◇◇◇
キャンセラーが効いていて、モルツは全く反応しない。
さっきから赤い灯りがちらちらと視界に入って来て煩わしいが、目晦ましのつもりかしら?
レジタンスの仲間は、ほぼ林の中に退避完了しており、彼らを囲んでいた戦車はスフィーラが一両無力化し、ダルトンの対戦車砲がもう一両撃破した。
あと一両……。
スフィーラは、体を思い切り縮めて戦車のキャタピラに体当たりする。
そもそも、どこが戦車の弱点で、どこを攻撃すればいいのかなんて、アリーナには全く分からない。手に武器もない今、肉弾戦しか取り様がないのだ。
しかし、アリーナの体当たりはちゃんと戦車のキャタピラを破壊し、戦車は方向を失って立ち往生した。
はー。これでいいかな?
アリーナがそう思って、その場に直立した時だった。
突然、一陣の風が吹いた様な気がして、本能的に慌てて身を翻したが、特殊鉄鋼弾が一発、スフィーラの左膝関節を貫通した。
「痛い!」
アリーナは激痛を感じ、その場にしゃがみ込んでしまった。
「何よこれ……左足が……動かない……」
◇◇◇
「おおー!! 当たったぞ!!」
周りの兵士達が歓声を上げている。
しかし、サルワニ少佐の顔は、全く笑っていなかった。
「なぜだ。なぜ一発しか当たらん。
普通なら全弾命中で、左足がちぎれるはずだ……」
実はその時、速射砲の弾がマッハ7に達するより前に、マナの流れでそれを無意識下に感知したアリーナの本能が、瞬時に土魔法を反応させ、わずかだがスフィーラの身体が動いたため、全弾命中を免れたのだった。
そんな事情を知る由もないサルワニはさらに驚愕する。
しかも……何!? 立っただと?
アンドロイドが関節機構を壊されて、なぜ立てる?
アリーナがスフィーラを動かそうと、懸命に土魔法を行使していたのだが、それを目の当たりにしてサルワニは動揺しつつも、冷静に次の指示を出す。
「もう一度、全弾発射! 今度は右膝を狙え!」
すぐに次弾がスフィーラめがけて発射されたが、右膝にはやはり一発があたったのみだった。
なぜ全弾あたらないんだ!?
しかし、さすがにこれでは立ち上がれるまい。
「よし。あいつを鹵獲するぞ。いろいろ調べねばならん!!」
そう言って、サルワニは、スフィーラ目指して高台から降りていった。
◇◇◇
スフィーラは、露地の真ん中で両膝を撃ち抜かれ、両手で這いつくばりながら、必死に仲間の方に向かおうとするが身体がどんどん動かなくなって来ている。
両膝を撃ち抜かれた際に走った激痛で、興奮も緊張も全部どこかへ行ってしまった様で、これでは魔法も使えない。
「スフィーラーーーー!!」JJが絶叫し、スフィーラを助けに駆け寄ろうとするのを、ダルトンが羽交い絞めにして止める。
「だめだ! 今出ても狙い撃ちだ!」
上空に小型ドローンが飛来し、拡声器から声が聞こえた。
「レジスタンスの諸君。ご覧の様に、君たちのアンドロイドはもう動けない。
速やかに投降したまえ。我々も無益な殺生は希望しない」
降伏勧告だ。
「くそ、これまでか。熊殺しが無力化されちゃ、今の俺達に勝ち目はねえ」
アルマンはそう言って、両手を頭上に掲げて露地に出ていった。
他のメンバーもそれに続く。
「ああ……みんな……ごめんなさい。私の力が足りないばかりに……」
相変わらず、モルツは沈黙したままだ。
アリーナはその場で動けずに、声も出さずに泣いた。
やがて輸送ヘリが露地に降り立ち、獣人歩兵たちが降りて来て、アルマン達レジスタンスを一か所に集め、整列させた。
アリーナは、小銃を構えた兵士にグルリと囲まれている。
そしてややしばらくして、エルフ兵の一群がアリーナに近づいてきた。
「サルワニ少佐! ご苦労様でした。
レジスタンスは、あそこにまとめてあります。
それで、このアンドロイドですが、いかがいたしましょう?」
獣人の指揮官らしい兵士がエルフの偉そうな兵士にそう語った。
(サルワニ少佐……)
顔が似ている訳ではないが、何となくアルマンと同じ雰囲気を持っている。
いわゆるベテラン軍人といった匂いがする人だ。
アリーナはそう思った。
サルワニは、銃口をアリーナの額に向けながら話掛けてきた。
「会話は可能か?」
回答に迷ったが、アルマンの顔を見たら、会話しろと言ってる様に見えた。そうだよね。ここでちゃんと会話出来れば、みんなの命が助かる可能性だってある!
アリーナはスフィーラからの発声を試みるが、キャンセラーが効いていても首から上の機能は生きている様だ。
「会話は……可能です」
「それでは尋ねる。
なぜお前にはキャンセラーが効かない?」
「それは……自分にはわかりません」
「そうか。まあ兵器自身がなぜこんなスペックなのか、自分で理解している必要はないか。それじゃ、次の質問だ。
お前は、なんでそんなふざけた格好をしている。娼婦の様で、大変下品だ!」
「これは……私の専用装備です。それにそんな質問はセクハラです!
どんな格好をしていようが、それは私の自由です。
私はTPOに一番合った服装をしているだけです」
「……それは失礼した。セクハラ発言は詫びよう。
それにしても、AIも変わった感じの新型だな。
回収してラボでゆっくり調べさせてもらうぞ」
そういってサルワニは、向きを替えて歩きだした。
「少佐。待って下さい。
みんなの……レジスタンスの人達の安全を保障して下さい!
それなら、私はあなたのいう事に従います!!」
サルワニがまたアリーナの方に向き直って言った。
「今の君が、そんな駆け引きが出来る立場にあると思っているのか。
でも、まあ……気持ちは分からんでもない。そうした覚悟は私も嫌いではない。
だが済まぬ。私の権限が及ぶのは、お前の扱いに関する事だけだ。
レジスタンスの彼らの扱いは、ここの歩兵部隊に任せるしかない」
「それじゃ……」
「ああ。レジスタンスには、全員射殺命令が出ている」
「!!」
その声に、サルワニは立ち上がって再び双眼鏡を手にした。
露地は周辺の高台からサーチライトで照らされ、ここからでも中の様子がよくわかる。
「ほう……あれが女アンドロイド……確かに美人ではあるが……。
しかし、なんという下品な恰好だ! あれでは娼婦ではないか!
奴の指揮官は変態なのか? まったく王国の連中は戦争を舐めているのか!?
……まあいい。全速射砲、発射準備。
……何やら動き方が、従前のアンドロイドのパターンと違うな。
誤射に気を付けろ。正確に膝を狙え。
必ず動きが緩慢になる瞬間があるはずだ。そこを狙え!」
高台の数か所に設置された12mm対アンドロイド速射砲から、照準のレーザーマーカーがスフィーラに向かって投影される。
それを光学センサーが拾って自動で照準を合わせるので、マーカー位置さえ合っていれば誤射はほとんどない。これも旧王国の技術だ。
くそっ、こちらからでは戦車の陰か……。
いや。戦車が撃破された……。
出て来たぞ!
全弾発射!!
◇◇◇
キャンセラーが効いていて、モルツは全く反応しない。
さっきから赤い灯りがちらちらと視界に入って来て煩わしいが、目晦ましのつもりかしら?
レジタンスの仲間は、ほぼ林の中に退避完了しており、彼らを囲んでいた戦車はスフィーラが一両無力化し、ダルトンの対戦車砲がもう一両撃破した。
あと一両……。
スフィーラは、体を思い切り縮めて戦車のキャタピラに体当たりする。
そもそも、どこが戦車の弱点で、どこを攻撃すればいいのかなんて、アリーナには全く分からない。手に武器もない今、肉弾戦しか取り様がないのだ。
しかし、アリーナの体当たりはちゃんと戦車のキャタピラを破壊し、戦車は方向を失って立ち往生した。
はー。これでいいかな?
アリーナがそう思って、その場に直立した時だった。
突然、一陣の風が吹いた様な気がして、本能的に慌てて身を翻したが、特殊鉄鋼弾が一発、スフィーラの左膝関節を貫通した。
「痛い!」
アリーナは激痛を感じ、その場にしゃがみ込んでしまった。
「何よこれ……左足が……動かない……」
◇◇◇
「おおー!! 当たったぞ!!」
周りの兵士達が歓声を上げている。
しかし、サルワニ少佐の顔は、全く笑っていなかった。
「なぜだ。なぜ一発しか当たらん。
普通なら全弾命中で、左足がちぎれるはずだ……」
実はその時、速射砲の弾がマッハ7に達するより前に、マナの流れでそれを無意識下に感知したアリーナの本能が、瞬時に土魔法を反応させ、わずかだがスフィーラの身体が動いたため、全弾命中を免れたのだった。
そんな事情を知る由もないサルワニはさらに驚愕する。
しかも……何!? 立っただと?
アンドロイドが関節機構を壊されて、なぜ立てる?
アリーナがスフィーラを動かそうと、懸命に土魔法を行使していたのだが、それを目の当たりにしてサルワニは動揺しつつも、冷静に次の指示を出す。
「もう一度、全弾発射! 今度は右膝を狙え!」
すぐに次弾がスフィーラめがけて発射されたが、右膝にはやはり一発があたったのみだった。
なぜ全弾あたらないんだ!?
しかし、さすがにこれでは立ち上がれるまい。
「よし。あいつを鹵獲するぞ。いろいろ調べねばならん!!」
そう言って、サルワニは、スフィーラ目指して高台から降りていった。
◇◇◇
スフィーラは、露地の真ん中で両膝を撃ち抜かれ、両手で這いつくばりながら、必死に仲間の方に向かおうとするが身体がどんどん動かなくなって来ている。
両膝を撃ち抜かれた際に走った激痛で、興奮も緊張も全部どこかへ行ってしまった様で、これでは魔法も使えない。
「スフィーラーーーー!!」JJが絶叫し、スフィーラを助けに駆け寄ろうとするのを、ダルトンが羽交い絞めにして止める。
「だめだ! 今出ても狙い撃ちだ!」
上空に小型ドローンが飛来し、拡声器から声が聞こえた。
「レジスタンスの諸君。ご覧の様に、君たちのアンドロイドはもう動けない。
速やかに投降したまえ。我々も無益な殺生は希望しない」
降伏勧告だ。
「くそ、これまでか。熊殺しが無力化されちゃ、今の俺達に勝ち目はねえ」
アルマンはそう言って、両手を頭上に掲げて露地に出ていった。
他のメンバーもそれに続く。
「ああ……みんな……ごめんなさい。私の力が足りないばかりに……」
相変わらず、モルツは沈黙したままだ。
アリーナはその場で動けずに、声も出さずに泣いた。
やがて輸送ヘリが露地に降り立ち、獣人歩兵たちが降りて来て、アルマン達レジスタンスを一か所に集め、整列させた。
アリーナは、小銃を構えた兵士にグルリと囲まれている。
そしてややしばらくして、エルフ兵の一群がアリーナに近づいてきた。
「サルワニ少佐! ご苦労様でした。
レジスタンスは、あそこにまとめてあります。
それで、このアンドロイドですが、いかがいたしましょう?」
獣人の指揮官らしい兵士がエルフの偉そうな兵士にそう語った。
(サルワニ少佐……)
顔が似ている訳ではないが、何となくアルマンと同じ雰囲気を持っている。
いわゆるベテラン軍人といった匂いがする人だ。
アリーナはそう思った。
サルワニは、銃口をアリーナの額に向けながら話掛けてきた。
「会話は可能か?」
回答に迷ったが、アルマンの顔を見たら、会話しろと言ってる様に見えた。そうだよね。ここでちゃんと会話出来れば、みんなの命が助かる可能性だってある!
アリーナはスフィーラからの発声を試みるが、キャンセラーが効いていても首から上の機能は生きている様だ。
「会話は……可能です」
「それでは尋ねる。
なぜお前にはキャンセラーが効かない?」
「それは……自分にはわかりません」
「そうか。まあ兵器自身がなぜこんなスペックなのか、自分で理解している必要はないか。それじゃ、次の質問だ。
お前は、なんでそんなふざけた格好をしている。娼婦の様で、大変下品だ!」
「これは……私の専用装備です。それにそんな質問はセクハラです!
どんな格好をしていようが、それは私の自由です。
私はTPOに一番合った服装をしているだけです」
「……それは失礼した。セクハラ発言は詫びよう。
それにしても、AIも変わった感じの新型だな。
回収してラボでゆっくり調べさせてもらうぞ」
そういってサルワニは、向きを替えて歩きだした。
「少佐。待って下さい。
みんなの……レジスタンスの人達の安全を保障して下さい!
それなら、私はあなたのいう事に従います!!」
サルワニがまたアリーナの方に向き直って言った。
「今の君が、そんな駆け引きが出来る立場にあると思っているのか。
でも、まあ……気持ちは分からんでもない。そうした覚悟は私も嫌いではない。
だが済まぬ。私の権限が及ぶのは、お前の扱いに関する事だけだ。
レジスタンスの彼らの扱いは、ここの歩兵部隊に任せるしかない」
「それじゃ……」
「ああ。レジスタンスには、全員射殺命令が出ている」
「!!」