第28話 懸命の脱出行

文字数 2,196文字

「ここを抜けるの?」
「ああ、後続は足の遅い連中だ。
 山の中突っ切らせると隊列がバラバラになりかねん」
 アリーナの問いに、アルマンが答えた。

 高台でアリーナとアルマンが、進む方向の打ち合わせをしている。
 眼下の盆地は、低木で覆われ上空からも狙われにくく、確かに夜間の行軍には有利で、ここを一気に抜けられればメリットも大きい。
 しかしそれ故、対歩兵戦闘が主となりキャンセラーをすり抜けるのも難しくなるだろう。

 だが選択の余地はない。陽が昇れば、非戦闘員達がなすすべもなく戦闘機や空中ドローンからの無差別攻撃を受けてしまうリスクが増大する。

 アリーナは意を決して盆地に降りていき、アルマン達支援部隊がそれに続いた。
 
 ◇◇◇
 
「少佐。レジスタンスの連中が盆地に入った様です」
「よし、それでいい。
 アンドロイドに無茶に挑んで我が軍の損害を大きくしない様、全軍に通達。
 奴には我々が対処するので、それが終わったら好きにレジスタンスを掃討しろと伝えろ! 
 それで、ポイントアルファの状況は?」

「すでに配置作業は終わっています。
 各小隊には、アンドロイドをそこへ誘導する様、指示済です」

「それでは……私は、四番砲塔の所に向かう。」
 サルワニはMAPを確認しながら言った。

 ポイントアルファ。
 サルワニは低木が広がる盆地の一角に、直径三百mほどの開けた場所を予め準備させた。それはもちろん対アンドロイド速射砲で狙い撃ちにするためで、ポイントアルファに十字砲火を浴びせられる様すでに砲も配置済みだ。
 ただあてずっぽうに撃って、胴体にでもあたったら一大事となる可能性もあり、必ずターゲットを視認してから攻撃するのがこの戦法のセオリーだ。
 それに、その女のアンドロイド……ちょっと近くで見てみたい気もする。

 そう言う訳で、サルワニはポイントアルファに一番近い砲塔に向かう事にした。

 ◇◇◇

「ねえ。敵さんの圧力が弱くなっていない?」
【そうですね。
 キャンセラーが効かない事を知って、損耗を嫌ったのかも知れません】
「でも、それでこのまま通してくれるって事はないよね?」
【夜明けを待って、航空攻撃をしてくる可能性あり】
「となると、やっぱり一刻も早くここを突っ切らないと……」

【前方五百m。キャンセラー 4。二時の方向が安全です】
「それじゃ、キャンセラーは支援部隊に任せて、私達は右に迂回よ」
 支援部隊の一部がキャンセラーの対処に向かい、残りの後続はアリーナに続いて、二時の方向に向かった。
 そして五分程進んだところで、アリーナの足が止まった。

「モルツ。ここは?」
【露地ですね。どうやら焼夷弾か何かで焼き払われた跡の様です】
「この間までは、こんなのなかったんだが」アルマンがそう言った。

【アリーナ、これはワナです。この露地に踏み込んでは行けません!】

 しかしその時、後方で歓声と銃声が響いた。
 敵部隊が追い付いてきたに相違ない。

「仕方ない熊殺し。この露地を突っ切るぞ」
 アルマンがそういいながら、後続の非戦闘員達の誘導を始めた。
「私は一旦下がって後方を支援します」
 そういってアリーナは、今来た方へ、後方の敵兵の対処に向かった。

 そして後方の敵兵をせん滅し、アリーナが先に行った者と合流しようと露地まで戻って来た時、行く先を戦車に阻まれ露地の中で動くに動けなくなっていた、アルマン達友軍を目の当たりにした。

 ◇◇◇

「サルワニ少佐。レジスタンスの連中がポイントアルファに入り込み、戦車隊がこれを包囲しました!」

「アンドロイドは?」
「まだ確認出来ていません。別働隊として動いていると思われます!」
「うむ、そうか」
 サルワニは立ち上がって、四番砲塔に近づき、そこからポイントアルファ双眼鏡でを眺めた。たしかに、レジスタンスが五十名程、ごそっと網にかかっている。

「よし。あいつらは人質だ。アンドロイドの出現を待つぞ。
 各速射砲は発射準備!」

 伝え聞いた話では大層な美少女だというではないか。
 さあ出てこい、アンドロイド。
 そのツラ、しっかり拝ませてもらうぞ!

 ◇◇◇
 
 複数のキャンセラー有効エリアに入ってしまった様で、モルツは沈黙してしまっている。そして、すでに戦闘開始して四時間以上経過しており、当初感じていた性的興奮もほぼ収まってしまっているのだが、まだマナの流れは感じられる。
 これは、私がスフィーラを土魔法で操る事に習熟してきたのか、それとも仲間の事を思ってまだ興奮と緊張が持続しているのか……とにかく、ここを突破しないとみんなが危ない。
 だがヘタに動くと、あそこで囲まれている仲間達が危険だ。
 
 アリーナがそう考えたていたその時だった。
 レジスタンスの仲間を囲んでいた戦車の一台が、ドーンと火柱を上げた。

「何事?」
 アリーナがズームで確認すると、ああ! あれは!!

 露地を挟んで、丁度アリーナと反対側の所に、友軍がいる!
「ダルトン! メランタリ! そして……JJ!!」
 秘事のせい? で出発が遅れたJJ達の一行がようやく追いついて来て、ダルトンが対戦車砲をぶっ放したのだ!

「包囲の一角が破れた! みんなあそこから林にかけ込め!!」
 アルマンの声で、露地にいたレジスタンス達が一斉にJJ達の方へかけていく」

 よっし! これなら。

 アリーナは露地にかけ込んで、逃げるレジスタンスを追おうとしていた戦車の前に立ちはだかった。


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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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